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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
ようやく着いたバス停の庇の下で紫織はほっと息を吐き、しかし藤木を見て眼を丸くした。
「やだ!先生、すごい濡れてる!」
インディゴブルーのシャツは濃いネイビーブルーに色を変えるほどに濡れそぼっていた。

「私にばかり傘、差してくれてたから…!」
慌ててハンカチを取り出し、藤木の肩を拭く。
「大丈夫だよ、こんなの。
それより君の方を拭きなさい。
濡れたままだと風邪を引く」

言われて自分を見ると、白地のセーラー服の袖が雨に濡れ、白い素肌まで透けそうになっていた…。
感じたことのない微かな羞恥心を不意に覚える。
もう一枚のハンカチをそそくさと取り出し、藤木に押し付ける。
「ハンカチ二枚ありますから。
これ、使って拭いてください」

少しの沈黙のあと、藤木の節のしっかりした長い指が紫織のハンカチを受け取った。
…指先が微かに触れ合う…。

…微かに雨に濡れたひんやりとした…大人の男の指…。

わざと雑に手を離し、紫織は自分の袖を拭く。

「…ありがとう…。借りるよ…」

二人は互いにしばらく、濡れた服を拭くことに集中した。

「…雨、降りすぎ…」
ぽつりと独り言のような紫織の言葉に…

「…うん…。土砂降りだ…」
やはり独り言のような藤木の美しい声が応えた…。

…激しい春の雨は、二人を閉じ込めるかのように降り続けた…。
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