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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
ほどなくして来たバスに二人は乗り込んだ。
帰宅ラッシュは過ぎているし、始発から近い停留所なので、バスの車内は比較的空いていた。
後方の並びの二人席に座る。
藤木が窓際、紫織は通路側だ。

バスの長閑な揺れと、窓を打つ雨粒の音がぎこちない沈黙を和らげる。

「…君、北川紫織さんだよね…?」
先に口を開いたのは、藤木だった。
紫織は驚いて、傍らの教師を見上げる。
「私の名前…ご存知だったんですか?」
藤木の化学の授業は受けてはいたが、まだ赴任して二ヶ月にもならないのだ。
大勢いる生徒の名前など、覚えていないと思っていた。

少し躊躇い勝ちに、彼は答えた。
「君は目立つからね…。
…こんなことを言ったら今時はセクハラになるのかも知れないけれど…君はとても綺麗だから…」
愚直なほどに率直な言葉は、紫織の胸を打った。

紫織は異性に自分の容姿を褒められることが好きではなかった。
なぜならその言葉の裏側には必ず、安っぽい…または下卑た下心が見え隠れしていたからだ。

けれどそれを口にすると
「美人は贅沢だ」
だの
「お高く止まっている」
だの散々に陰口を言われることは眼に見えていた。
だから、口にしたことはない。

…だが、藤木の言葉は紫織に不快感を与えなかった。
寧ろ、くすぐったいような…どぎまぎするような妙に落ち着かない心持ちにさせたのだった。

「…何より…」
彼は続けた。
「君は必ず授業前の黒板を綺麗にしてくれる」
意外な言葉に不意を突かれた。
「…え?」
「いつも黒板が綺麗なのは君のクラスだけだ。
…そうしたら、君が授業前に黒板を清掃してくれているのが見えた。
…あれ、本当は日直の仕事なんじゃないの?」

紫織は苦笑した。
「…そうなんですけど…皆んなよくサボるから…。
私、黒板が汚れているの、落ち着かないんです。
気づいたらさっさとやってしまった方がすっきりするし…。
中等部からの習慣なんです」

「職員室でも君の評判は素晴らしくいい。
成績優秀、スポーツも万能、生徒会役員で学級委員長、同級生や後輩の面倒見もいい…とね。
…加えて、とても美人だ。
名前を覚えない方が不思議だよ」
淡々と語られる内容に、紫織は思わず頰を染めた。

…でも…
と、藤木の穏やかな声に労わりの色が帯びた。

「…どこか無理をしているような気がしてね…」

紫織は息を呑んだ。








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