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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…無理…?」
どきりとしながら、思わず鸚鵡返しする。

「うん…。無理…というか、すごく頑張りすぎている…ていうか…。
もっと肩の力を抜いていいのに…て、思ったんだ。
まだ十七歳だろう?
何もかも、完璧にこなさなくてもいいんじゃないかな?
少しくらい気を抜いても…て。
それから…時には友達や他人に甘えてもいいんじゃないかな?
…あ、ごめん。
君を批判している訳じゃ、決してないんだ。
むしろすごく感心しているんだ。
でも、君が疲れないかなあ…て。
…ああ、また何か勝手に色々と…。
余計なことを言ったよね」
ごめんね…と、寝癖の付いた頭を掻き、申し訳なさそうに謝った。

紫織は暫く押し黙った。
…気を悪くした訳ではない。
初めて自分の心の中を覗かれたようで、言葉を失くしたのだ。

「…初めてです…。そんなこと言われたの…」
「うん。本当にごめんね。
君はしっかりしていて賢いし、他人にとても親切だし頑張り屋さんだし、それは本当に凄いと思う。
だからあとは少しだけ、自分を甘やかしてあげられたらいいんじゃないかな…」
藤木の言葉は、少しも押し付けがましくなかった。

乾いた砂にすうっと水が染み込むように、その言葉は紫織の胸に流れ込んできた。

…一瞬、ひんやりとした香が薫きしめられた暗い和室に背中を向けて座る母親の後ろ姿が幻影のように浮かび…紫織は軽く頭を振った。

「…私を甘やかしてくれるひと…いるのかしら…」
ぽつりと口から溢れた寂しい言葉に、自分でもはっとする。

藤木は驚くこともなく、のんびりと…しかし確信に満ちたように頷いた。

「いるさ。きっと…」
どちらからともなく、視線が合った。
藤木の眼差しには、温かな温度があった。
やや緊張した心が、緩やかに柔らかに解されてゆく…。

「…あ…!」
紫織は、ある発見に思わず声を上げた。
「な、何?」
怪訝そうに藤木が眼を瞬かせる。
「先生の眼、綺麗な色…。
…榛色…ていうのかしら?」
…茶色のような翠のような蒼のような…それら全てが混ざったような不思議な不思議な瞳の色だった…。

「ああ…」
藤木は小さく笑った。
「曽祖父がイギリス人なんだ。
隔世遺伝てやつかな。
…他はコテコテの日本人なのに…間抜けだよね」

紫織はきっぱり言った。
「すごく、綺麗です」

藤木が照れたように、また寝癖が付いた頭を掻いた。






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