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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
そのまま、何とはなしに二人は黙り込んだ。
…けれど、気まずい沈黙ではない。

微かに触れ合う藤木の肩から、温かさがじわりと伝わる。
普段だったら他人の…しかも成人男性と身体が触れ合うことは自分から癇性に避ける紫織だが、藤木の肩は居心地が良く、どこか甘美なときめきすら覚えた。

藤木から幽かに薫るのは…菊や百合の花の薫りに、ウッディ・モッシーの薫りだろうか…。
今まで嗅いだことがないような良い薫りだった。

…トワレ…なのかな…。
男の人…先生が香水をつけるなんて、珍しいな…。
藤木先生、そういうことに無頓着そうに見えるのに…。
可笑しくなりながらも、少しどきどきした。

…あと停留所五つほどで、終点のターミナル駅に着いてしまう。

…寂しいな…。
心の声に、紫織は慌てて自分を戒めるように長く艶やかな髪を搔き上げ…その動作の繋ぎの振りをして、藤木を見上げる。

藤木はすっかり暮れた窓の外の景色を眺めていた。

高く形の良い鼻梁…引き締まった唇…。
…そして、榛色の瞳…。

…もっと、見ていたかったな…。

密かに、密かに、思った。





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