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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…さっきはありがとうございました…」
終点のバスターミナルで降り、人波で混雑する駅前で紫織は神妙に礼を言う。
「いや…。
つい、担任なんて言っちゃった。
僕は北川さんの化学の教師だ…!…じゃ、あんまり迫力ないかなあと思ってさ」
寝癖の髪を掻く様は、やはりどこかとぼけた高校教師だ。
先ほど静かに凄味を込めて男子高生を諌めた姿は見受けられない。

だから
「…迫力…ですか…。
どっちにしても、あんまりないような…」
可笑しくて笑ってしまう。

「うん。そうだよね…」
照れたように頭を掻いた。

…けれど…
「…でも良かった。
君が危ない目に遭わなくて…」
心から安堵したような声を漏らし、紫織はくすぐったいような嬉しいような不思議な気持ちに襲われた。
「ありがとうございます。
…ずっとしつこくされていたから…ほっとしました」

「…君はとても綺麗だから人目を惹くんだ。
これからも気をつけた方がいい。
何かあったら、また相談して…」
淡々と…けれど心配そうに言われて、胸がどきりと甘く疼く。

「…あ、セクハラ発言じゃないからね」
と慌てて付け足され、吹き出す。
「分かってますってば」

見上げると、榛色の瞳がほっとしたように微笑んでいた。

「良かった…。
女子校の先生は、色々と気を遣うよ」
そして、腕時計を見る。
カジュアルな学生のような服装には似合わない高価そうな洗練された時計だ。
…何て時計なんだろう…。

「結構遅い時間になってしまったね。
…傘、入れてくれてありがとう」
「先生は駅から、大丈夫ですか?」
「江古田駅のすぐ近くだから、大丈夫。
君は?」
…江古田…。江古田って、どこだっけ?
確か日芸があるところだっけ?
「経堂です」
形の良い唇に笑みが浮かぶ。
「なら近いね。
気をつけて帰りなさい。
じゃ、またね」
あっさりと挨拶され慌てて
「はい。失礼します」
頭を下げる。

…次に頭を上げた時には、藤木は既に雑踏の中…長身の後ろ姿が見えるだけだった。

「…何よ…。さっさと行っちゃって…」
微かにがっかりして紫織は白い頰を膨らませる。

…けれど、長身のやや猫背の後ろ姿が次第に小さくなってゆくのを見るのは意外に楽しかった。

「…ここからも寝癖が見える…」
くすりと笑う。

…ひとりの男の後ろ姿が見えなくなるまで見送るのは、初めての経験だった…。




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