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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…お母様、ただいま帰りました…」
磨き上げられた廊下に膝をつき、襖越しにそっと声をかける。

ややもあって…
「…お入りなさい…」
静かだが感情が殆ど読み取れない声が返ってきた。

「…失礼いたします…」
音を立てないように襖を開け、中に入る。

…ぼんやりとした行燈のみの光…。
その薄明かりの中、母親の瘦せぎすの着物の背中が浮かび上がる。
ブルーグレーの紬の着物に名古屋帯…。
寸分の狂いもないようなきちんとした着付けだ。
四十はとうに越えているが白髪のない美しい黒髪をひと筋の乱れもなく束髪に結い上げている。

紫織が中に入っても、母、蒔子は振り向きもしない。
時折、花鋏を使う音が聞こえるから、いつものように花を生けているのだろう。

…部屋には、母親が薫きしめた香の薫りがひんやりと漂っていた。

「遅かったのですね。何をしていましたか?」
まるで学院の風紀のシスターのような事務的な質問が飛んだ。

「生徒会の仕事を…。
友人に急用が出来たので私が代わってあげたのです。
提出期限が今日まででしたので時間がかかりました」

「…そうですか…」
紫織の淀みのない返答を聞き、やや安堵したような声色になる。
…けれど直ぐに…

「…男性といた訳ではないのですね?」
勘繰るような言葉が飛んだ。

…やっぱり、疑っていたんだ…。
紫織は憂鬱に沈み込むような気持ちになりながら、即答する。
「いいえ。違います」

…不意に、藤木の美しい榛色の瞳が脳裏を過ぎった。
胸が甘く疼き…そのことを、蒔子の手前に痛快にすら思った。

「一人で帰宅しました」
短く答えると、ようやく蒔子が振り返った。

「分かりました。紫織さんは責任感のある子ですからね。お友達を助けて差し上げたのね。
でも、今度から遅くなるなら連絡をなさい」
安心したせいか、蒔子の細面の白い貌には薄い微笑みが浮かんでいた。

「はい。すみませんでした」
頭を下げる紫織に、幾分柔らかな声が掛けられる。
「お食事をしてきなさい。お腹が空いたでしょう」
「…お母様は?」
「私は食欲がないから、要りません。
…朝から頭が痛むのですよ…」
やや陰鬱な口調で囁き、再び紫織に背を向けた。
…それは紫織に退室を促すサインだ。

「…お大事になさって下さい」
他人行儀に挨拶をし、紫織は部屋を後した。

襖を閉めると、小さなため息が溢れた。


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