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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
…母、蒔子がこんな風になってしまった理由は明らかだ。
父親のせいだと、紫織は思う。

紫織の父親・北川亮介は大手商社に勤務するエリート商社マンだが、紫織が物心つく頃からずっと愛人の影がちらついていた。
夫婦仲はすでにすっかり冷え切っていた。
上司の妻が仲介した断れない見合いで結婚した亮介には最初から蒔子への愛情は希薄だったのだろう。
紫織が生まれると義務は果たしたとでもいうかのように、外に愛人を作ったようだ。
見た目も良く、洗練されていて金回りのよい亮介を、女たちは放っておかなかったのだ。

しかし亮介は女あしらいの上手い男の上に、賢い分別を持っていた。
本妻と愛人の区別をしっかり付け、蒔子の不満が出ないよう、外面はしっかりと取り繕った。
蒔子を最大限に立て、家庭では良き夫、良き父親を今も演じ続けている。

ことに一人娘の紫織のことは、溺愛と言っても良いほどに可愛がっている。
蒔子と離婚しないのは、紫織に会えなくなるのを恐れてだろう。

「もし、お母様と別れることになっても紫織はお父様のところに来てくれるか?」
と、うっかり口を滑らせたことがあるほどだ。

…そんな、自分勝手ではあるが陽気で何故だか憎めない父が、紫織は好きだ。
亮介の中で紫織は優先順位が一番だし、どんなに忙しくても紫織の誕生日や記念日、何かのお祝いには必ずスケジュールを空けて祝ってくれる。

美しく成長した娘が自慢で堪らないのか、早々に優秀な部下を紹介して、青年たちが紫織に見惚れ、恋し始めると…
「でもやっぱりダメだ。
お前たちみたいな未熟なヤカラに紫織はやらん。
紫織はずっと俺と暮らすんだからな」
と訳の分からないことを言い出す。

部下たちは
「ひどいなあ…北川部長は」
と、愚痴りながらも
「北川部長のパソコンのデスクトップは紫織さんの入学式のお写真ですからね。デスク周りには紫織さんの写真だらけだし…。
鬼の部長も美人のお嬢さんには形無しなんですね」
と、こっそり教えてくれた。

亮介の口癖は
「紫織には三国一の婿を俺が見つける」
…だ。

「お父様は本当に勝手なんだから…」
呆れる紫織を亮介は愛おしげに抱きしめ…

「…紫織には幸せな結婚をして欲しいんだ。
…俺たちの冷え切った結婚で、お前には悲しい思いをさせてしまったからな…」
と、しみじみと言われ…紫織は何も言えなくなってしまった。



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