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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
その日、紫織はなかなか眠りに就けなかった。

…こんなことは初めてだ…。

ベッドの中で何度も寝返りを打つ。
その度に、あの若い高校教師の榛色の瞳が、思い浮かび紫織を更に眠りから遠のかせるのだ。

…藤木先生…、結婚しているのかな…?

気になりだすと、止まらない。

…薬指に指輪はなかったけれど…、今はしないひとも多いし…。

まだ27歳なら独身よね、きっと…。
男性は30歳くらいまでは独身者が殆どだし…。
情報通のクラスメートからも、そんな情報はない。

…でも…
と、紫織は密かに考える。

…恋人は、いるのかな…。

結婚はまだでも、恋人はいるかも知れない…。

思わずため息を吐く。

どんな女性だろうかと考える以前に、あの高校教師がどんな風に恋人に微笑むのかを考えると、感じたことのない胸の痛みを覚える。

…どんな風に微笑むのかな…。
少し恥ずかしそうに笑いながら、あの寝癖がついた髪を掻き上げるのかな…。

そして、藤木のあの美しい榛色の瞳を、特別な距離で見つめられる人がいるのかも知れないという事実に、紫織はもやもやするような、息苦しくなるような、未体験の感情に襲われるのだ。

…しかし、やがて…

「関係ないわ。
先生に恋人がいようといまいと…。
私にはぜんぜん関係ないもの…!」
暗闇の中、わざと声に出しそう呟くと、紫織は頭から毛布を被り眼を閉じた。

…春の雨は、いつのまにかやんでいた…。
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