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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
その日の午後…化学の授業のあと、休み時間の開放感に賑やかになる教室で、藤木は声を掛けた。
「北川さん、ちょっといいかな?」

「…はい…!」

教師が学級委員長の紫織に声を掛けることは珍しくはない。
皆は無関心にお喋りを続けていた。

どきどきする胸を抑えながら、紫織は教壇の前に進んだ。

…皺の寄った白衣、その下から覗くダンガリーのシャツ…今日はべージュのチノパンツだ…。
すらりと長い脚が良く映える。

背の高い藤木が教壇に立つと、紫織との身長差は更に広がる。

少しの沈黙があり…
…もしかして…先生、怒っている?勝手に準備室に入って、勝手にお弁当置いてきたから…。
と、紫織は不安に包まれた。

勇気を出して見上げる先に、午後の光を受けて明るく輝く榛色の瞳があった。
…その瞳がやや照れたように細められた。

「今日の放課後、少し時間あるかな?」
「は、はい!大丈夫です」
「悪いんだけど、この前の実験レポート、クラスのみんなの分を集めて持ってきてもらえるかな?
僕が声を掛けても、なかなか集まらないから…」
困ったように髪を掻き上げる。

…あ、また寝癖…と、可笑しくなる。

「いいですよ。持っていきます」
…なあんだ。レポートの用事か…。
少し肩透かしの気持ちになったとき…

藤木が高い背を屈めて、貌を近寄せた。

「…お弁当、美味しかった…。
ありがとう…」
優しい密やかな声が紫織の耳を掠めた。

「…あ…」
白い耳朶が熱を持ったように脈打つ。

「じゃあね…」
柔らかな微笑みと、微かな…あの藤木のオリジナルアロマの薫りを残し、教師は飄々と教室を後にした…。




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