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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「今日はありがとう。
びっくりしたけど、美味しかったよ」
西陽が差し込む化学準備室の中、藤木はケトルに水を注ぎながら少し照れたように笑った。
「…すみません。勝手に入って勝手に置いてきちゃって…」
肩を竦めながら紫織は藤木のすらりとした…けれどやや猫背な白衣の背中を見つめる。
…綺麗な、背中…。
自信なげだけれど、優しげで…そしてどこか少し寂しそうで…。
「まあ確かに驚いた。何だ何だ?て…」
…でも…
と、榛色の眼差しが優しく紫織を振り返る。
「…それ以上に嬉しかった…」
藤木と眼が合うと、体温が一気に上がり…胸がきゅっと引き絞られるように甘く疼く。
…その感情を何と名付けるのか…。
紫織はもう、分かっている。
認めるのが怖いだけだ…。
「…良かった…。
私、初めてお弁当作ったんです。
…家政婦さんに教えてもらいながら…ですけど…」
「へえ。そりゃすごいね」
「何が一番美味しかったですか?」
気になることをまず、聞いてみる。
「全部美味しかったけど、ピーマンの肉詰めかな」
「良かった!それ、私作りました!」
思わず眼を輝かせて喜ぶ。
「そう。初めてとは思えないよ。上手に出来てた」
教師らしく優しく褒めてくれる。
「あとは?」
つい意気込んで聞いてしまう。
「あとは…タラの芽の天ぷらかな」
「…それ、家政婦さんです…」
ちょっとがっかりする。
「あ、ごめん。…でも、懐かしい味だったなあ…。
僕は長野育ちだから、タラの芽はよく食べていたからね」
「…へえ…。先生、長野県のご出身なんですか…」
…藤木のことを一つずつ知るのは、わくわくするくらい楽しい…。
「…うん。長野県の諏訪市。
諏訪湖があるところだよ。
あとは諏訪大社に御柱祭…。
…のどかな信州の田舎だ」
「…へえ…諏訪市…」
…行ったことないけれど、行ってみたいな…。
密かに思う。
ケトルから甲高い電子音が響く。
藤木がゆらりと立ち上がり、紫織に再び背を向ける。
お湯が沸いたケトルを手に何かをしている気配がした。
…ふと、紅茶の薫りがふんわりと漂い…振り向いた藤木が紫織に差し出したのは…
「はい。良かったらどうぞ…」
…ガラスのビーカーに淹れられたティーバックの紅茶だった…。
びっくりしたけど、美味しかったよ」
西陽が差し込む化学準備室の中、藤木はケトルに水を注ぎながら少し照れたように笑った。
「…すみません。勝手に入って勝手に置いてきちゃって…」
肩を竦めながら紫織は藤木のすらりとした…けれどやや猫背な白衣の背中を見つめる。
…綺麗な、背中…。
自信なげだけれど、優しげで…そしてどこか少し寂しそうで…。
「まあ確かに驚いた。何だ何だ?て…」
…でも…
と、榛色の眼差しが優しく紫織を振り返る。
「…それ以上に嬉しかった…」
藤木と眼が合うと、体温が一気に上がり…胸がきゅっと引き絞られるように甘く疼く。
…その感情を何と名付けるのか…。
紫織はもう、分かっている。
認めるのが怖いだけだ…。
「…良かった…。
私、初めてお弁当作ったんです。
…家政婦さんに教えてもらいながら…ですけど…」
「へえ。そりゃすごいね」
「何が一番美味しかったですか?」
気になることをまず、聞いてみる。
「全部美味しかったけど、ピーマンの肉詰めかな」
「良かった!それ、私作りました!」
思わず眼を輝かせて喜ぶ。
「そう。初めてとは思えないよ。上手に出来てた」
教師らしく優しく褒めてくれる。
「あとは?」
つい意気込んで聞いてしまう。
「あとは…タラの芽の天ぷらかな」
「…それ、家政婦さんです…」
ちょっとがっかりする。
「あ、ごめん。…でも、懐かしい味だったなあ…。
僕は長野育ちだから、タラの芽はよく食べていたからね」
「…へえ…。先生、長野県のご出身なんですか…」
…藤木のことを一つずつ知るのは、わくわくするくらい楽しい…。
「…うん。長野県の諏訪市。
諏訪湖があるところだよ。
あとは諏訪大社に御柱祭…。
…のどかな信州の田舎だ」
「…へえ…諏訪市…」
…行ったことないけれど、行ってみたいな…。
密かに思う。
ケトルから甲高い電子音が響く。
藤木がゆらりと立ち上がり、紫織に再び背を向ける。
お湯が沸いたケトルを手に何かをしている気配がした。
…ふと、紅茶の薫りがふんわりと漂い…振り向いた藤木が紫織に差し出したのは…
「はい。良かったらどうぞ…」
…ガラスのビーカーに淹れられたティーバックの紅茶だった…。