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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…これ…」
まじまじとビーカーを見つめる紫織に、藤木が心配そうに声をかける。
「紅茶、嫌い?」
「そうじゃなくて…ビーカー…」
藤木が恥ずかしそうに頭を掻いた。
…寝癖は相変わらずだ。
「あ、ごめん。
まだマグカップとか用意してなくて、これしかないんだ。
耐熱容器だから大丈夫だよ。
綺麗に洗ってあるし…」
「いえ、そうじゃなくて…私、ビーカーでお茶飲むの、憧れだったんです」
「へ?」
「少女漫画であったんです。
女の子がガラスのビーカーでお茶を飲む場面が…。
大好きな先生にお茶を淹れてもら…」
…言いかけて、自分と藤木の今の状況とダブりそうで慌てて言い直す。
「…とにかく…ビーカーでお茶を飲んでみたかったんです…」
俯いて、手のひらのビーカーを見つめる。
…無機質な器が、世界で一番綺麗なカップに見えた…。

「…そう。それは良かった…」
穏やかな声が頭上から響く。

「…あの…先生…」
「うん?」

「…先生…恋人…いますか…?」
清水の舞台から飛び降りるつもりで、尋ねた。

息を飲む気配のあと、すぐに…
「…いないよ、そんなひと…」

全身の力が抜け落ちるほどにほっとする。
「良か…じゃなくて…そうですか…」

「…君は?…恋人はいないの?」
「いません」
想定外の問いかけに反射的に答える紫織を、藤木は僅かに安堵したように見つめ…けれど何かを振り切るように立ち上がり、棚に向かった。
「…そう。
そんなに美人なのにね…」
「関係、ないと思います」
「…そうかな。君があんまり綺麗すぎて、男の子は怖気付いているんじゃないかな。
高嶺の花だと思われているんだよ。
でも、君は気さくで意外にお茶目だし…。
そんな君の一面に気づいてくれる男の子がきっと現れるさ」

…優しい言葉…。
けれどそれは、紫織に対して予防線を張るような言葉に思えた。
「…先生…」
…なんだか、はぐらかされたような…やんわり振られたような…落ち込む気分になる。

紫織はビーカーの紅茶を一口飲む。
…温かくて、でも、仄かに苦い…。

先生みたいだ…。

「…あの…」
「うん?」
振り返らない藤木の背中に、紫織は毅然と宣言する。

「…私、これからも先生にお弁当を作ってきます。
…先生に恋人ができるまで…」

「北川さん…」
藤木が振り返る。

「…作りたいんです」
自分自身に、言い聞かせた。





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