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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…だけど…」
と、洗い終えた試験管やビーカーを棚に戻しながら、紫織はため息をつく。

「…あれから、何の進展もなし…かあ…」
窓から見える礼拝堂の高い朱色の塔…。
あの下に、今、シスターカミラに睨まれながら小さくなってミサに参加する藤木がいるのだ…。

「…藤木先生…私のこと、本当はどう思っているのかなあ…」
開け放った窓枠に頬杖を突き、独りごちる。

紫織が藤木のことを好きなことは分かっているはずだ。
改めて告白はしていないが、それでも紫織の言動や表情で、さすがに察知はしているだろう。

けれど、藤木は特に態度を変える様子もない。
今まで通り淡々と穏やかに紫織に接してくる。
放課後の化学準備室でのお茶の時間も相変わらずだ。
他愛ない話や進路の話など、親身に誠実に話を聞いて、意見や感想を述べてくれる。
それは紫織にとって何より楽しく幸せな時間なのだ。

藤木は紫織のことを、好感は持ってくれているようだし、他の生徒よりは特別扱いに近い待遇をしてくれているようだ。
けれどもそれは、教師と生徒との関係を逸脱するものでは決してない。

…それなのに…
紫織は再びため息をつく。

さっきのように思わせぶりな一言を言ったりするのだ。

『君みたいに綺麗な女の子が、無防備に男に触るものじゃないよ。
…誤解される』
…と…。

「…誤解…じゃないのにな…。
…誤解…してくれていいのにな…」

藤木のことになると、いつも冷静ではいられない。
気がつくと、ため息ばかりついている紫織なのだ。
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