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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
足音を立てないように、庭の飛び石を踏みながら、紫織は茶室に近づいた。

ぽつぽつと雨が降り出した。
紫織は眉を顰めて足早に庇の下に立つ。

…早くご挨拶を済ませて帰ろう…。

茶室の躙口に手を掛けようとした時、その声は聞こえてきた…。
…茶室の障子窓が、少し開いていたのだ…。


「…全く、蒔子さんも不幸な結婚をしたものね。
亮介さんの女道楽には困ったものだわ。
…まあ、紫織が生まれたことだけが不幸中の幸いだわね」
…蒔子に良く似た低く抑揚のない冷淡な声は、叔母の曄子だろう。

話の内容の生々しさに、思わず紫織は手を引っ込めた。

…そうして、暫くの沈黙ののち、その沈鬱な言葉は発せられたのだ。

「…紫織が生まれたこと…。
…幸い…なのかしらね…」

紫織は息を飲む。

「…紫織が生まれなかったら、私はさっさとあのひとと離婚できたわ。
離婚して別の人生を歩めた…。
…決して幸いではないわ」
「…蒔子さん…。それは言い過ぎだわ。
紫織は貴女の血を分けた娘でしょう」
珍しく取りなす曄子の言葉を振り切るように、蒔子は激しく言い募る。

「いいえ、お姉様。
紫織は私の娘だけれど、私に何ひとつ似ていないわ。
美しい貌も明るく溌剌とした性格も、華やかで人を惹きつけるところも…全部…全部あのひとにそっくり…!
…紫織を見ると、あのひとを見ているようで、苦しくなるの。
…時には、憎くなるの。
我が子だけれど、愛おしいと思えないの…可愛いと思えないの…」

…情け容赦なく、切り捨てるような言葉…。
愛情の欠片も何もないその言葉は、間違いなく蒔子のものだ。

紫織は、叫び出しそうになる唇を震える両手で必死に抑える。
身体が小刻みに震えて、立っているのもやっとだ。
玉砂利の音をさせないように、必死で後退りする。

茶室から二人の声が聞こえないほど遠ざかると、紫織は振り返ることもなく裏木戸から走り出した。

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