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第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜

…その靴音が近づいて来たのは、それから小一時間はゆうに経った頃だった。

激しい雨音に混じり、規則的な靴音が響く…。

紫織は身を守るようにマンションの壁にもたれかかり、眼を閉じていた。

…靴音が、紫織の前でぴたりと止まる。
同時に…

「北川さん⁈どうしたの⁈」
酷く驚いたような男の声が、間近に響いた。

紫織はゆっくりと瞼を開けた。

…藤木が眼の前に茫然とした表情で、佇んでいた。

ゆらゆらと揺らめく視界の中で、男の姿だけが明瞭だった。

血の気を失くしていた唇が、ゆっくりと解ける。

「…藤木…先生…」

紫織の大きな瞳から、透明な涙が一雫、溢れ落ちた…。