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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
「とにかく中に入りなさい。
…今、タオルを持ってくる。
ここで待っていて…」
遠慮勝ちに引かれていた手を、玄関先でそっと離される。
慌ただしく靴を脱ぎ、三和土から室内に向かおうとする藤木の腕を、紫織は強く掴んだ。

「…行かないで…先生…」
…自分でも、どうかしたのかと思うほど、涙が止まらない。

「…北川さん…」
当惑したような、声…。
…それはそうだろう。
夜にいきなり生徒が自宅前で待ち伏せしていたのだ。
彼にとっては、迷惑この上ない出来事だろう。

…でも…
「…どこにも行かないで…。ここにいて…」
駄々をこねるように繰り返す。

藤木がふっと、優しさを滲ませた声で答えた。
「…どこにも行かないよ。
…タオルを取ってくるだけだ。
…君が風邪を引い…」
無理やり男の胸に飛び込み、しがみつく。

「先生…お願い…。
…今だけ…今だけ甘えさせて…。
…私を甘えさせてくれるひと…どこにもいないんだもの…」
子どものように泣きじゃくりながら、しがみついて離れない紫織を、藤木は拒みはしなかった。

小さく息を吐く気配ののち…藤木の大きな…温かな手が、紫織の華奢な背中をそっと抱く。
そのまま優しく静かに抱きしめる。

「…ここにいるよ…。
…いくらでも、甘えていい…」
穏やかな…微かに甘さを含んだ声が、鼓膜に染み込む。

「…先生…!」
男の引き締まった胸元に、貌を埋める。

…モッシー…シプレー…深い深い森に咲く百合や菫…
藤木のトワレの薫りが強くなる…。

雨音は二人を閉じ込めるかのように、強く、激しくなった…。

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