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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
藤木の家の電話を借り、プッシュボタンを押す。
1コールで電話は繋がった。
「紫織さん⁈まあまあ、どこにいらしたんですか!
心配しておりましたよ!」
カヨの声は動揺と安堵に震えていた。
…遅くまで残って、待っていてくれたのだ。
カヨへの済まなさがじわじわと込み上げてくる。

「ごめんなさい。カヨさん…」
紫織は素直に謝った。
「…今、学校のお友だちのおうちにいるの…。
急用を思い出して…」
ちらりとカウンターキッチン内にいる藤木を振り返る。
藤木は腕組みしながら頷いた。
…友だちのところに居ることにすると、電話を掛ける前に告げると
『嘘は基本的には良くないけれど、真実を告げるより相手に心労をかけないのならそれがいい』
と、如何にも教師らしい冷静な言葉で言われたのだ。

カヨがその言葉を本当に信じたかは疑問だが、
「そうかと思いまして、奥様にはそのように先にお伝えしておきました。
幸い奥様はまだ離れで曄子様と話し込んでおられますので、大丈夫ですよ」
そう優しく言ってくれたのだ。
「…ありがとう、カヨさん。
…なるべく遅くならないようにするわ…」
伝えて電話を切った。

…曄子叔母様がいらしてて助かったわ…。
皮肉なことだけれど…。
曄子が来ると、蒔子は援軍が来たとばかりに、話に夢中になるからだ。

…さて、次は…
と、紫織は暗記している電話番号を押した。

藤木は相変わらず優しい眼差しで紫織を見守っている。

…あのひとに、好きだと言われたんだわ…。
…キス…されたんだわ…。

触れ合った唇の感触が生々しく蘇り、身体が熱く火照る。
胸が、甘く切なくときめいた…。



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