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異邦人の庭 〜secret garden〜
第9章 ガブリエルの秘密の庭 〜甘く苦い恋の記憶〜
そののち、藤木は車で自宅近くまで送ってくれた。
人目に付かぬよう、やや離れた場所に車を停めた。

…二人とも、車内では言葉少なだった。
車を降りてしまえば、二人の関係はただの教師と生徒になってしまう。
明日貌を合わせても、今のように親しく、特別の関係ではいられないのだ。
紫織の胸にひたひたと寂寥感が満ちてきた。

別れ際、藤木が静かに口を開いた。
「…携帯電話は持っている?」
「はい。二年生になったお祝いに父からもらいました…」
海外出張が多く留守勝ちな父親が、紫織と連絡を取りたいから…という理由で購入してくれたのだ。
けれど、まだ周りでは携帯電話を持っている友人は少なく、あまり使用してはいなかった。

「僕の電話番号を教えておく。メールアドレスもね。
…何かあったら連絡して」
「…いいんですか?」
紫織の貌がぱっと輝いた。
「もちろん。
…というか、学校ではなかなか話せないと思うし…そうしないといけないと思う。
君の立場を第一に守らなくてはならないからね」
きっぱりとした言葉だった。
「…先生と話しちゃいけないの?」
「いけなくはないけれど、人目に立つ行為は控えた方がいい。
学校ではけじめをつけなくてはならないと思う」
「…そうだけど…」
…なんだかお互いの想いを確認した途端、他人行儀にしなくてはならないのか…と、紫織はしゅんと肩を落とした。

そんな気持ちを察知したかのように、藤木がそっと紫織の手を握りしめる。
「…だから、携帯の番号を交換しよう。
いつでも電話やメールをしてくれていいよ。
…紫織のことを、僕も知っておきたい」
見上げる榛色の美しい瞳には、誠実さが溢れていた。
紫織は小さく頷いた。
…先生を、信じよう…。

「…ありがとう、先生…」
…その大きく温かな綺麗な手を両手で握り返す。
そうして、そっと唇をつける。

「…大好き、先生…」
…口にすればするほどに、恋が昂まるのを感じた…。

「…大好きだよ、紫織…」
そっと抱き寄せられる。
…深い深い森の奥に咲く百合と、モッシーの薫りが紫織の心にも染み込んでゆくのだ…。


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