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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
紫織が自宅に帰ると、携帯電話が鳴った。
びくりと反応し、画面を凝視する。
…藤木からだ。

紫織は出なかった。
電話は何回も鳴った。
けれど、頑として出なかった。

しばらくしてメールが入った。
『紫織、大丈夫?帰っている?
帰っていたら連絡ください』
『紫織、メールは読んでくれていますか?
読んでいたら返事をください』

すべて、無視した。
本当は出たくて堪らなかった。
声が聞きたかった。話したかった。
けれど、無視した。
許せなかったからだ。
一年生の女の子が楽しげに藤木と話していた。
藤木は女の子に優しく笑いかけていた。
…そして…ビーカーの紅茶…。
すごく些細なことかもしれないけれど、紫織にとっては大問題だった。
そのことに気づかない藤木に腹が立ったのだ。

着信ランプが点滅する携帯電話を、紫織はベッドのブランケットの中に押し込んだ。

「…藤木先生のバカ…」
…大嫌い…!と言おうとして、けれどそれは、言葉にはならず…紫織はベッドに突っ伏して、ため息を吐いた…。

…恋は薔薇色というのは嘘なのだと、紫織は切なく思うのだった。

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