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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
翌日の放課後、生徒会の前期決算報告書をまとめ終えた紫織は職員室に向かっていた。
学院長のシスター・テレーズに提出しなくてはならないからだ。

人影も無くなった本校舎から職員棟に向かう渡り廊下を歩いていると、東棟の角から不意に藤木が現れた。

「北川さん…」
藤木が呼び止める。
紫織は一瞬脚を止めたが、わざとつんと澄ました表情を作る。
そのまま無視してさっさと通り過ぎる。
…と、藤木とすれ違う刹那、腕を掴まれ…
「…な…っ…」
見上げるその瞳を、榛色の瞳がやや強い眼差しで捕らえた。
押し殺した密やかな声…
「…おいで」
「…先生…離して…誰かに見られたら…」
声を潜める。
誰が見ているか、分からないからだ。
「だから、静かにして」
密やかに耳元で命じられ、紫織はおし黙る。
そのまま足早に、向かい側の礼拝堂の中に連れ込まれた。

素早く後ろ手に鍵を掛け、藤木は紫織を煉瓦造りの壁に押し付ける。
「何で電話に出ないの?」
静かだが強い口調…。
「……」
「メールも返信をくれないし。何を怒っているの?
…もしかして、昨日のあの子のこと?」
藤木の声に困惑が滲み出る。
「…離して…」
「まさかとは思うけれど、疑っているの?
あの子とは進路相談に乗ってあげていただけだよ。
2年に進級するときの選択科目、理系か文系か悩んでいると相談があって…」

紫織は大きな瞳で藤木を睨みつけた。
「分かってないわ!」
「え?」
「ビーカー!」
「へ?」
「ビーカー!他の子に使わせないでよ!」
「ビ、ビーカー?」
「私以外の子に、ビーカーでお茶淹れないで!
あれは、私のものだわ!
私だけのものだわ!」
全ての感情が決壊したかのように涙が溢れ、泣きじゃくる紫織を藤木が優しく胸に抱き寄せた。
「…紫織…」
「…あれは…私のだもの…私の…」
わあわあ子どものように泣きじゃくる。
「…そうだ…そうだよね…。
ごめん…ごめんね…。紫織…」
温かな手が紫織の背中を摩り、優しい声が紫織を宥める。
胸に刺さっていたちくちくした嫉妬の棘が柔らかくゆっくりと解けて流れていくのが分かる。

「…ごめん…。紫織…ごめんね…」
紫織は男の引き締まった胸に貌を押し付ける。
…藤木の低く美しい声と、深い深い森の中に咲く百合と苔の薫りが切ない紫織の恋心にひたひたと満ち、穏やかに癒してゆくのだ…。




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