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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…美加…。またお願いがあるんだけど…」
帰宅してすぐにしたことは、友人の美加に電話を掛けることだった。
「またアリバイ作り?オーケーオーケー。
…で?今度は何?」
察しが良い美加は直ぐに請け負ってくれた。

「…海にね…。デートするの」
自分の部屋で声を潜めながらも、ついうきうきとしてしまう。
少しだけ、自慢したかったのだ…。

…デート…!
何てステキな響きなのだろう。
初めてのデートなのだ。
デート、デート、デート!

「お〜!ロマンチック〜!
…てかさ、紫織の彼氏ってちょっと年上?
車、持ってんでしょ?」
察しが良すぎる美加にどきりとしながらも、そっと告げる。
「…うん。そう。
…あのね、実は初めてなの。
二人で出かけるの…」

そう…。
初めてなのだ。
何しろ、万が一にも人目についてはならないので、二人で外で逢うことはできなかったのだ。
…逢えるのは学校だけ。
しかも、ただの生徒と教師の関係で…。
誰にも悟られるわけにはいかない。
そっとお互いの存在を確認し、視線だけで言葉を交わし、離れてゆく…。
それだけで終わってゆく日もある。
…そんな密やかな、秘密の恋…。

言葉少なな紫織の気持ちを、美加は直ぐに汲んだようだ。
「…なんかワケありっぽいね。
でも、賢い紫織がバカなマネするわけはないしね。
相手のひとも、きっとすごくステキなひとだろうし…。
…いいよ。色々聞かない。
デート、楽しんで来て。
アリバイは、任せろ!
あたしとママでガッチリ紫織を守るから!」

電話越しの美加の明るい笑い声が、紫織を祝福してくれたのだ…。



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