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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
「いらっしゃいませ!
…あら?…もしかして…芳人ちゃん!?」

浜辺のすぐそばの「紫陽花食堂」と看板に書かれた小さな…けれど清潔でいかにも美味しそうな雰囲気の店のドアを開けると、五十絡みの人の良さげな女将らしき人が、藤木を見た瞬間に歓声を上げた。

「はい。芳人です。
ご無沙汰しています」
「やっぱり芳人ちゃんやあ!懐かしいねえ…!
お母さんと長野に引っ越したんよねえ。
あれから二十年かあ…。
元気にしちょった?お母さんは元気?」
にこにこと話しかけられ、藤木もにこやかな笑顔になる。
「お陰様で元気にしております。
小母さんもお変わりないですね」
「いやあ、全然や。すっかりばあちゃんになってしもうて…。
…由布子さんのお父さんも亡くなって、病院も畳まれたから、もう芳人ちゃんもここには来んやろうなあ…と思っとったんよ。
だから会えて嬉しいねえ…」
女将はしみじみ語ったあと、藤木の隣にいる紫織に気づき眼を見張る。
「…あらあら、お喋りしすぎてしもて堪忍ねえ。
いらっしゃいませ」
紫織も慌てて頭を下げる。
「こんにちは。お邪魔いたします」
「…まあまあ…綺麗なお嬢さんやねえ…」
ため息混じりに漏らす女将に
「恋人なんです。
小母さんの料理を彼女にも食べさせたくて、連れて来ました」
少し照れながらも藤木ははっきりと答えた。

「あらあ、そんな嬉しいこと言うてくれて、ありがとうねえ。
…こんな綺麗なお嬢さんと…。芳人ちゃん、幸せやねえ…」

女将は藤木と紫織を交互に見ながら朗らかに微笑んだ。

「こんな田舎の食堂の料理で良かったら、ごゆっくり食べていってちょうだいねえ」
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