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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
穏やかな紺碧の海がよく見える窓際の席に案内され、藤木と向かい合わせに座る。

「何にする?紫織。
小母さんの料理はなんでも美味しいけれど、金目鯛の煮付けとアジフライが絶品だよ」
素朴な手書きのメニューを渡される。
「…迷っちゃうな…。
金目鯛もアジも大好き…」
紫織は真剣に考える。

「カキフライも自信あるんよ。
…でも、芳人ちゃんはカキが苦手やったねえ?
いつもお母さんに食べてもろてたねえ?」
お茶を運んできた女将が、にこにこ笑いながら話しかけてくれる。

「小さかったからですよ。
今では好き嫌いはないです」
照れ臭そうに頭を掻きながら藤木が答えた。
…そうして…
「小母さん、お任せで色々お願いできますか?
…紫織は嫌いなものはなかったよね?」
「はい。大丈夫です」

「ええよ。そいなら、今日は活きのいいアジとイワシが入ったからそれをお刺身とさんが焼きにして…あとは煮付けとフライの盛り合わせか何かにするわ。
ちょっと待っちょってね」
女将は人懐っこい笑顔を残して、厨房に戻っていった。

「…先生、カキが苦手だったんだ」
小声で尋ねると
「…うん。実は魚介が苦手だったんだ。
漁師町に育ったのにね。
でも、今はなんでも食べられるよ」
「…可愛い、先生。
なんでも食べられるようになって偉い偉い」
くすくす笑う紫織の白い額を指で突っつく。
「こら。大人を揶揄うんじゃないよ」
「…だって、可愛いんだもん。
先生のことを色々知るの、楽しい。
もっともっと、先生のこと知りたい」

紫織の言葉に、藤木が頬杖をつきながら榛色の瞳を細め、やや艶っぽく笑った。

「…僕も紫織のすべてを知りたいな…」
「…え…?」
どきりとして眼を見張る。

藤木が吹き出して、陽気に笑い出した。
「…今、えっちなこと考えただろう?
赤くなってる」
紫織は慌てて首を振り、照れ隠しに藤木の頰を抓った。
「バカバカ!そんなの考えてないってば!」
くすくす笑いながら藤木が紫織の白い手を取る。
そうして、そっと手の甲に優しいキスを落とし、囁いた。

「…いつか、僕だけに教えてくれ。
…君のすべてを…」

紫織の胸は甘く切なく疼き、何も言えなくなってしまった…。




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