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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
「お待ちどおさまでしたねえ。
…お口に合えばええけども…」
そう言いながら女将がテーブルに並べた料理に、紫織は眼を見張った。

…アジのなめろうにイワシのさんが焼き、甘海老と鮑の刺身とアジフライ、金目鯛の煮付け、味噌汁には浅利がたっぷり入っている。
若芽とシラスの酢の物、茶碗蒸し、とこぶしの甘辛煮まで付いていた。

「わあ…!すごく美味しそうです…!
ありがとうございます」
紫織は歓声をあげる。

「おばあちゃんの田舎料理やからねえ。
都会の若いお嬢さんに気に入ってもらえたらええけど…。
たくさん食べてちょうだいねえ」
女将は優しげに笑い…
「ほんまに可愛らしいお嬢さんやねえ。
芳人ちゃんとようお似合いや」
と、藤木に目配せをした。
藤木はまたもや照れたように髪を掻き上げた。


…その時、
「…おまたせいたしました…」
女将の背後からちょこんと貌を出した少女が、はにかみながら二人にデザートの枇杷ゼリーを差し出した。
「あら、可愛い!」
紫織は思わず微笑んだ。

「孫の澄佳です。
裏の家に住んでて、時々店の手伝いをしてくれるんですよ。
澄佳、芳人ちゃんたちにご挨拶しい」
「…こんにちは。小川澄佳です。
…いらっしゃいませ…」
澄佳と呼ばれた10歳くらいの美しい少女は恥ずかしそうに…けれどきちんと頭を下げた。
ボブカットの黒髪、細面の貌は子どもながら人形のように整っている。
キャラクターのついたエプロンを着けているのが如何にも可愛らしい。

「お利口さんだね。澄佳ちゃん。
お祖母ちゃんのお手伝いをして、偉いね」
藤木は教師らしく優しく声をかけた。

「この枇杷ゼリーは澄佳が作ったんですよ。
料理が好きで、よう私の手伝いをしてくれるんよ」
孫が可愛くて仕方がないように、女将は澄佳の頭を撫でた。

「すごいわ。澄佳ちゃん。とっても美味しそう。
ありがとうね」
紫織が褒めると、澄佳は嬉しそうに少し頰を赤らめて頷いた。
「…ありがとうございます…」

可愛らしい小さなシェフの登場に、更にその場の雰囲気が和んだ時、店の扉が勢いよく開いた。

「おい、澄佳!
海に泳ぎに行くぞ!今日は平泳ぎ、教えてやる」
一人の真っ黒に日焼けした凛々しい風貌の少年が飛び込んで来た。

「涼ちゃん!」
澄佳が叫んだ。


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