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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
女将の料理は、どれも本当に美味しかった。
アジフライはさくさくと揚がり、中はジューシーだ。
脂の乗った金目鯛の煮付けは甘くこくがあるたれが染み込んで、柔らかく、口の中で蕩けた。
鮑や甘海老の刺身は新鮮そのものだし、アジのなめろうやイワシのさんが焼きなどは紫織は初めて食べたが、その美味しさに思わず声を上げてしまったほどだ。
「すごく美味しいわ。
イワシってあまり食べなかったけれど、こうすればハンバーグみたいで食べやすいのね」
感心する紫織に、
「なめろうやさんが焼きは漁師料理だからね。
素朴だけれど、素材の良さが活きる料理なんだ。
…僕も小さな頃はよく母親に作ってもらって食べたな…」
懐かしそうな貌をした。
「…お母様にはよくお会いするの?」
藤木は微かに寂しげな笑みを浮かべた。
「…あまり会わないかな…。
僕が諏訪の家に貌を出すのも母の立場を考えると気の毒でね…」
…でも…
と、少しだけ苦しそうな…疲れたような色を微かに一瞬だけ滲ませた。
「…この間、会ったよ。
義兄と一緒に…。
…元気でやっていたよ…」
「…そう…」
…なぜか紫織の脳裏に、上質なスーツを着て、プリウスに乗り込み学院を出た藤木の姿が浮かんだ…。
…あの日のことかな…。
けれど、詮索するようで尋ねることはできなかった。
だから快活に箸を動かしながら、敢えて明るく告げる。
「…あまり会えなくても、先生のお母様はお優しそう…。
私の母とは大違い。羨ましいわ」
「…紫織…」
貌を上げると、優しさの篭った眼差しにぶつかる。
「…紫織のお母様にも形こそ違え、愛はあると思うよ…」
思わず胸を突かれる。
「…そう…かしら…」
…あるとは思えない…。
私を産んだことを後悔しているひとだもの…。
紫織の胸の内を計ったかのように穏やかに続ける。
「紫織への愛はあるけれど、それを伝えるすべを知らない方なんだよ…。
こんなに可愛い娘を、愛していないはずはないさ。
時間はたっぷりあるんだ。
焦らずにじっくりと分かり合える方法を探せばいいんだ…」
藤木の言葉は、温かな雪のようだ。
しんしんと、優しく紫織の胸に降り積もる。
「…うん…。そうだね…」
潤んだ瞳に、藤木がにっこり笑って映る。
「喋ってばかりだね。
…さあ、澄佳ちゃんのデザートをいただこうか」
「はい…!」
紫織は元気に頷いて、スプーンを手にした。
アジフライはさくさくと揚がり、中はジューシーだ。
脂の乗った金目鯛の煮付けは甘くこくがあるたれが染み込んで、柔らかく、口の中で蕩けた。
鮑や甘海老の刺身は新鮮そのものだし、アジのなめろうやイワシのさんが焼きなどは紫織は初めて食べたが、その美味しさに思わず声を上げてしまったほどだ。
「すごく美味しいわ。
イワシってあまり食べなかったけれど、こうすればハンバーグみたいで食べやすいのね」
感心する紫織に、
「なめろうやさんが焼きは漁師料理だからね。
素朴だけれど、素材の良さが活きる料理なんだ。
…僕も小さな頃はよく母親に作ってもらって食べたな…」
懐かしそうな貌をした。
「…お母様にはよくお会いするの?」
藤木は微かに寂しげな笑みを浮かべた。
「…あまり会わないかな…。
僕が諏訪の家に貌を出すのも母の立場を考えると気の毒でね…」
…でも…
と、少しだけ苦しそうな…疲れたような色を微かに一瞬だけ滲ませた。
「…この間、会ったよ。
義兄と一緒に…。
…元気でやっていたよ…」
「…そう…」
…なぜか紫織の脳裏に、上質なスーツを着て、プリウスに乗り込み学院を出た藤木の姿が浮かんだ…。
…あの日のことかな…。
けれど、詮索するようで尋ねることはできなかった。
だから快活に箸を動かしながら、敢えて明るく告げる。
「…あまり会えなくても、先生のお母様はお優しそう…。
私の母とは大違い。羨ましいわ」
「…紫織…」
貌を上げると、優しさの篭った眼差しにぶつかる。
「…紫織のお母様にも形こそ違え、愛はあると思うよ…」
思わず胸を突かれる。
「…そう…かしら…」
…あるとは思えない…。
私を産んだことを後悔しているひとだもの…。
紫織の胸の内を計ったかのように穏やかに続ける。
「紫織への愛はあるけれど、それを伝えるすべを知らない方なんだよ…。
こんなに可愛い娘を、愛していないはずはないさ。
時間はたっぷりあるんだ。
焦らずにじっくりと分かり合える方法を探せばいいんだ…」
藤木の言葉は、温かな雪のようだ。
しんしんと、優しく紫織の胸に降り積もる。
「…うん…。そうだね…」
潤んだ瞳に、藤木がにっこり笑って映る。
「喋ってばかりだね。
…さあ、澄佳ちゃんのデザートをいただこうか」
「はい…!」
紫織は元気に頷いて、スプーンを手にした。