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異邦人の庭 〜secret garden〜
第2章 ブルームーンの秘密
『どれでもお好きな蔓薔薇をお探しなせえ。
儂はここで紗耶嬢ちゃんをお待ちしとりますけえの』
庭師の森野はにこにこ笑いながら東屋で煙草を吹かしていた。

「すぐ戻るわ。待っていてね」
紗耶は森野に手を振ると、薔薇園に向かった。

…蔓薔薇蔓薔薇…
楽しい呪文のようにうきうきと唱える。

…コーネリアの他は…何をいただこう…。
百花繚乱の蔓薔薇のアーチやパーゴラを巡りながら胸をときめかせる。
甘い薔薇の薫りに気持ちは更に高揚する。

育て易いアイスバーグ…
華やかなリリーマルレーン…
フルーツの薫りのローズマリー…
アプリコットピンクのペニーレーン…
小さな可愛いお花のバレリーナもすてき…。

欲張りすぎかな…と足を止めたその先に、ブルームーンの花壇が見えた。

…ブルームーン…。
このブルームーンは、紗耶の大好きな薔薇だ…。

…だって…
ブルームーンは千晴お兄ちゃまみたいに神秘的で美しいから…。

…青のような紫のような不思議な色合い…。
いつまでも魅入ってしまいたくなる花は、まるで千晴そのものだ。

思わず手を伸ばしたその時…

少し離れた薔薇園の奥…一株の白いマダム・ブランティエが三つのアーチを描いている先から、密やかな声が聞こえたのだ。

「待ってください、紫織さん」
…低くなめらかに美しい声は、千晴だ。
千晴お兄ちゃまと…お母様…?

咄嗟に紗耶はブルームーンの根元に隠れた。
ブルームーンは大人の背丈ほどある。
紗耶が隠れることは、容易だった。

「…千晴さん。二度とそんなことを仰らないで…」
千晴より更に秘密めいた声で囁くのは…母の紫織だ。
しかも、いつもの母の柔らかな優しい声ではない。
…どこか切羽詰まったような…胸が痛くなるような…切ない声だ。

「紫織さん、お願いです。僕の話を聞いて下さい」
声を潜めてはいるが、強い口調…。
こんな声の千晴は初めてだ。
「…千晴さ…」
紫織の声が不意にくぐもった。
何か大変なことが起きようとしていると、紗耶は本能的に察した。

…そして…この光景を、見てはならないとも…。

けれど…。

紗耶の意思とは無関係に、震える眼差しは薔薇の葉陰から二人を探り当てる…。

…そうして、紗耶は小さく息を呑んだ。

…マダム・プランティエの幻想的なアーチの下…
二人は抱きあっていたのだ…。
さながら…恋人同士のように…。




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