この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第2章 ブルームーンの秘密
…千晴はそのしなやかで逞しい腕の中に包み込むように…愛おしくてたまらないように、紫織を抱きしめていた。
紫織もまた、千晴の背中に、その白く華奢な美しい手をそっと伸ばしていたのだ。
「…貴女が好きだ…。
ずっと…初めて会ったときから…僕は貴女に恋している…」
…甘く狂おしい声…。
いつも紳士的で冷静で穏やかで乱れたところなど決して見せない千晴とは別人のようだ。
「…だめ…仰らないで…」
…だめと言っているのに紫織の美しい手は、千晴を抱く…。
「…貴女が政彦さんの婚約者だと、我が家にいらしてお披露目された日…。
僕はまだ中学生だったけれど、取り返しのつかない恋に堕ちた予感で胸が苦しかった…。
…貴女は大人で…僕の従兄弟の妻になるひとで…けれどもう二度とこんなひとには巡り会えないほどに美しく、優美で、嫋やかで…僕は…絶望したんです。
…この美しいひとは、決して僕のものにはならないと…。
恋した瞬間に、悟ったのです」
…胸が苦しくなるような、哀しみに満ちた言葉だった。
「…そうよ…。私は貴方のものにはならないわ…」
…静かに諌めるような…けれどどこか愛撫するかのようなしっとりした艶めいた紫織の声が応える。
「嫌だ…!このまま、貴女を諦めるのは嫌だ…!
貴女を奪いたい…政彦さんから…貴女を束縛するすべてのものから…!
貴女を奪って…二人で誰も知らない遠い世界に…」
…千晴の大きな両手が、紫織の小さく美しい貌を持ち上げる。
紫織の美しい白い手が、抗うようにその手をそっと掴む。
「…だめよ…。
私は政彦さんの妻で、紗耶の母親なのよ。
私は人の道に外れることはしないの。
夫や子どもを捨てるような無責任なことはしないの」
「…なぜ?…政彦さんを愛しているから?」
…一瞬の間があった。
紗耶は苦しい小さな胸を抱え、固唾を飲んで二人を見守る。
「…愛しているかは分からない…。
私は、あのひとに乞われて結婚したから…。
…けれど…政彦さんは優しくて頼もしくて…私の我儘や願いもすべて叶えてくれる…。
とても良いひと…。
…それに…紗耶の父親ですもの…」
胸を突かれるほどに、寂しく…虚しい色を帯びた声だった。
…お母様…!
紗耶の心臓はブルームーンの棘が刺さったかのように激しく痛んだ。
紫織もまた、千晴の背中に、その白く華奢な美しい手をそっと伸ばしていたのだ。
「…貴女が好きだ…。
ずっと…初めて会ったときから…僕は貴女に恋している…」
…甘く狂おしい声…。
いつも紳士的で冷静で穏やかで乱れたところなど決して見せない千晴とは別人のようだ。
「…だめ…仰らないで…」
…だめと言っているのに紫織の美しい手は、千晴を抱く…。
「…貴女が政彦さんの婚約者だと、我が家にいらしてお披露目された日…。
僕はまだ中学生だったけれど、取り返しのつかない恋に堕ちた予感で胸が苦しかった…。
…貴女は大人で…僕の従兄弟の妻になるひとで…けれどもう二度とこんなひとには巡り会えないほどに美しく、優美で、嫋やかで…僕は…絶望したんです。
…この美しいひとは、決して僕のものにはならないと…。
恋した瞬間に、悟ったのです」
…胸が苦しくなるような、哀しみに満ちた言葉だった。
「…そうよ…。私は貴方のものにはならないわ…」
…静かに諌めるような…けれどどこか愛撫するかのようなしっとりした艶めいた紫織の声が応える。
「嫌だ…!このまま、貴女を諦めるのは嫌だ…!
貴女を奪いたい…政彦さんから…貴女を束縛するすべてのものから…!
貴女を奪って…二人で誰も知らない遠い世界に…」
…千晴の大きな両手が、紫織の小さく美しい貌を持ち上げる。
紫織の美しい白い手が、抗うようにその手をそっと掴む。
「…だめよ…。
私は政彦さんの妻で、紗耶の母親なのよ。
私は人の道に外れることはしないの。
夫や子どもを捨てるような無責任なことはしないの」
「…なぜ?…政彦さんを愛しているから?」
…一瞬の間があった。
紗耶は苦しい小さな胸を抱え、固唾を飲んで二人を見守る。
「…愛しているかは分からない…。
私は、あのひとに乞われて結婚したから…。
…けれど…政彦さんは優しくて頼もしくて…私の我儘や願いもすべて叶えてくれる…。
とても良いひと…。
…それに…紗耶の父親ですもの…」
胸を突かれるほどに、寂しく…虚しい色を帯びた声だった。
…お母様…!
紗耶の心臓はブルームーンの棘が刺さったかのように激しく痛んだ。