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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
…「芳人ちゃん!どうしたね⁈まあ、お嬢さんも!ずぶ濡れやないの!」
海から濡れ鼠の格好で上がってきた二人を偶然見かけた紫陽花食堂の女将が駆け寄る。
「すみません。小母さん。
この近くで、今晩泊まれる宿をご存知ありませんか?
彼女に風邪を引かせたくないのです」
紫織は思わず藤木を見上げた。
「…今夜は二人でここに泊まろう…」
優しい榛色の瞳が、頷く。
「…先生…」
紫織は涙ぐんだまま、何も言えなくなってしまった…。
紫陽花食堂の女将が大急ぎで電話をかけてくれたのは、昼間会った涼太の家だった。
涼太の家は漁師であり、魚屋と民宿を経営しているそうだった。
「こじんまりした宿やけど、涼ちゃんの両親はほんまにええひとたちやし、何しろ魚屋さんの宿やからごはんが美味しいんよ。
お嬢さん、温泉でゆっくりあったまって、泊まっておいで」
何か事情を察したような女将は、ただにっこりと笑って、二人を送り出してくれたのだ…。