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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…先生…」
部屋の襖をそっと開け、紫織は声をかける。

部屋の奥…窓辺に立ち、硝子越しの夜の海を眺めていた藤木が振り返る。

「…紫織…」
紫織の浴衣姿に、眼を見張り…優しく微笑むと、その手を差し伸べた。

「…おいで、紫織…」
その声に吸い寄せられるように男のもとに近づく。
そのまま、男の胸に優しく抱き込まれた。

…藤木の藍染の浴衣は、柄は異なるが紫織とお揃いのようだ。
女将が気を利かせてくれたのだろう。

「…先生…。浴衣が似合うわ…」
上背のある藤木に落ち着いた藍色の浴衣は良く映えた。
見上げる紫織の顎を捕らえられる。
「…君こそ、とても綺麗だ…。
すごく可愛い…」
「…せんせ…」

…食べてしまいたいよ…。
男が艶を含んだ低い声で囁いた。
そのまま唇を奪われる。
…二人きりになると、藤木はとても大胆に、情熱的になるようだ。
柔らかく唇を食まれ、滑らかに舌を絡ませられる。
…大人の口づけ…。
…まるで、この先に起こるであろう秘めやかで淫らな男女の営みを彷彿させるような、生々しい口づけだ。

「…んっ…」
甘やかで濃密な口づけに浅く呼吸を喘がせると、そっと唇が離された。
「…電話、した?」
まだ生乾きの長い黒髪を撫でられ、尋ねられる。
紫織は頷いた。
「…美加のお母様が、うちに電話してくれるって…。
…今夜は、美加のおうちに泊まるから…と…」

藤木が苦しげに息を吐いた。

「…僕は教師失格だな…。
紫織に嘘ばかり吐かせている…」



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