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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
紫織の長い睫毛が、細かに瞬かれた。
伏し目勝ちに答える。
「…はい…。
お友だちに勧められて…」
「…そう…」
さして興味を持った様子もなく頷くと、紫織の傍を通り過ぎる。
行ってしまうのかと思われたその時…蒔子は不意に立ち止まり、振り返った。
仄暗い行燈の灯りでは、蒔子の表情は読み取れない。
「…なんだか嫌らしい匂い…」
冷ややかな…侮蔑と嫌悪の色が濃厚に漂う声であった。
はっと紫織の身体が固まる。
「お母様…」
紫織の呼びかけには答えずに…
「私は華道協会の会合で出かけます。
戸締りをしておいてください」
淡々とした言葉と、心が冷えるような沈香の薫りだけを残して、蒔子は姿を消したのだった。
伏し目勝ちに答える。
「…はい…。
お友だちに勧められて…」
「…そう…」
さして興味を持った様子もなく頷くと、紫織の傍を通り過ぎる。
行ってしまうのかと思われたその時…蒔子は不意に立ち止まり、振り返った。
仄暗い行燈の灯りでは、蒔子の表情は読み取れない。
「…なんだか嫌らしい匂い…」
冷ややかな…侮蔑と嫌悪の色が濃厚に漂う声であった。
はっと紫織の身体が固まる。
「お母様…」
紫織の呼びかけには答えずに…
「私は華道協会の会合で出かけます。
戸締りをしておいてください」
淡々とした言葉と、心が冷えるような沈香の薫りだけを残して、蒔子は姿を消したのだった。