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異邦人の庭 〜secret garden〜
第10章 ビーカーとマグカップ 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…雨…かしら…」
…ベッドの中、窓を打つ雨音に紫織は瞼をそっと開く。
男の逞しい胸に耳を押し当て、その鼓動を聴いていたのだ。
規則正しい鼓動に、ぽつぽつと不規則な雨音が混じり合う…。

「…降り出したみたいだね…。
寒くない?紫織…」
優しい声が尋ね、毛布を紫織の白い肩に引き上げてくれる。
「大丈夫。
…ねえ…先生…?」
「うん?」

聞いてみたかったことを思い切って尋ねてみる。
「…あのね…。先生…。
今まで何人くらいのひととお付き合いしたの?」
吐息まじりの軽い笑い声が響く。
「何でそんなこと聞くの?」
「…だって…先生ってきっとモテただろうな…て…」
わざと膨れてみせる。
「イケメンで背も高いし高学歴だし優良物件だって、友だちが言っていたわ」
くすくす笑いながら、紫織の髪を優しく撫でる。
「物件か…。
今時の女子高生は怖いな…。僕は不動産みたいだね」
「笑って誤魔化さないで」
少し怒った貌を作って見せて、男を見上げる。
「何人?」
「…そんなに多くはないよ。
…高校と大学と…コロンビアと…五人くらいかな…」
「…それって、少ないのかな…」
男性経験は藤木が初めての紫織にはよく分からない。
「さあどうかな…」
…けれど…と、ふっと疲れたような寂しげな表情を浮かべる。
「…あまり続かなくてね…。
恋人がいない期間の方が長かったし…。
僕があまり恋愛に興味がなかったせいかな…」
「…へえ…」
少し心配になっていると、不意に温かな長く引き締まった腕に抱き込まれた。
「でも、紫織は違う…。
君は、初めて会った時から僕の心の真ん中に飛び込んできた。
息が止まるほどに綺麗で清らかな君に、僕は魂を奪われたんだ…。
…それからずっと、君の虜だ…」
榛色の瞳の中に、素肌の自分が映る。
…うんと綺麗に映っていますように…。
紫織はそっと祈った。

「僕より君は?そんなに綺麗なんだ。女子校でも他でモテただろう?」
藤木の少し嫉妬じみた声が嬉しくてわざと背を向ける。
「教えな〜い!」
「紫織…」
「教えないもん!」
「あ、そ」
…ならこうするしかないな…。
艶めいた声が鼓膜を揺らしたかと思うと…。

藤木が紫織を抱き込み、脇腹を盛大にくすぐり始めた。
「こら、白状しろ」
「やだ!先生!くすぐったいってば!」

二人は仔犬のように戯れあい、息が苦しくなるまで笑い転げたのだった。


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