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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…でもね、だからと言って私は無闇やたらに秘密の恋を応援するって訳じゃないの。
紫織ちゃんがすごく良い子でいじらしくて、何よりしっかりと分別を持った女の子だからなのよ。
紫織ちゃんが恋したひとなら大丈夫!って、信じているからなの。
そうでなかったら…秘密の恋は、やっぱりしない方がいいに決まってるもの…」
艶子は切なげにため息を吐いて見せた。
「…ママはさ、昔、駆け落ちしたんだよ」
美加がそっと告げた。
「え⁈駆け落ち⁈」
紫織は驚きに眼を見張る。
「そ。ママはさ、ここの料亭の一人娘だったんだけさ、店に修業に来た一番若いイケメンな板前見習いと恋に落ちちゃったの。
両親は大阪のふぐ料理屋の大店の息子との縁談を考えていたらしいのね。
で、両親に大反対されて、その板前と駆け落ちしちゃったんだって」
「…そ、それでどうなったんですか?」
…というか、ここでそんな話をして大丈夫なんだろうかと紫織は心配になる。
しかし、艶子はうっとりした表情で睫毛をぱちぱちさせる。
「…夜行列車で北に行こうと手に手を取って逃げたのよ…。
人間ってなぜ逃げる時に北に行くのかしらねえ…」
「…はあ…」
夢見がちな表情の艶子に美加は肩を竦める。
「結局、上野駅で捕まったんだってさ。
ショボ…」
「あら!ショボいとは何よ!」
…そこに遠慮勝ちなノックの音が聞こえ、そろそろとドアが開かれた。
「あのう…。艶子さん、そろそろ…」
小太りで恰幅の良いいかにも人の良さげな中年の男が声をかけた。
「はあい。パパ!あと少しで行くわ」
艶子が手を挙げる。
慌てて立ち上がり挨拶する紫織に、美加の父親はにこにこしながら
「ゆっくりしていってくださいね」
と、頭を下げてドアを閉めた。
「…こんなお話ししていて、大丈夫だったかしら?」
心配する紫織に美加はケロリと言った。
「大丈夫。
だって、駆け落ちした相手って今のパパだもん」
「え⁈」
「上野駅でぎゃーぎゃー泣き喚いてパパから離れないママを見て、両親…つまり私のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは仕方なく結婚を許したんだってさ。
ロマンス…て言うよりズッコケ珍道中でしょ?
…イケメンだったって言うのも詐欺か⁈て言うくらい今じゃくまのプーさんみたいなオヤジだしさ」
けれど艶子は澄まして顎を逸らし、こう言い放ったのだ。
「あら。私にとってはパパは今だに男前な王子様よ」
紫織ちゃんがすごく良い子でいじらしくて、何よりしっかりと分別を持った女の子だからなのよ。
紫織ちゃんが恋したひとなら大丈夫!って、信じているからなの。
そうでなかったら…秘密の恋は、やっぱりしない方がいいに決まってるもの…」
艶子は切なげにため息を吐いて見せた。
「…ママはさ、昔、駆け落ちしたんだよ」
美加がそっと告げた。
「え⁈駆け落ち⁈」
紫織は驚きに眼を見張る。
「そ。ママはさ、ここの料亭の一人娘だったんだけさ、店に修業に来た一番若いイケメンな板前見習いと恋に落ちちゃったの。
両親は大阪のふぐ料理屋の大店の息子との縁談を考えていたらしいのね。
で、両親に大反対されて、その板前と駆け落ちしちゃったんだって」
「…そ、それでどうなったんですか?」
…というか、ここでそんな話をして大丈夫なんだろうかと紫織は心配になる。
しかし、艶子はうっとりした表情で睫毛をぱちぱちさせる。
「…夜行列車で北に行こうと手に手を取って逃げたのよ…。
人間ってなぜ逃げる時に北に行くのかしらねえ…」
「…はあ…」
夢見がちな表情の艶子に美加は肩を竦める。
「結局、上野駅で捕まったんだってさ。
ショボ…」
「あら!ショボいとは何よ!」
…そこに遠慮勝ちなノックの音が聞こえ、そろそろとドアが開かれた。
「あのう…。艶子さん、そろそろ…」
小太りで恰幅の良いいかにも人の良さげな中年の男が声をかけた。
「はあい。パパ!あと少しで行くわ」
艶子が手を挙げる。
慌てて立ち上がり挨拶する紫織に、美加の父親はにこにこしながら
「ゆっくりしていってくださいね」
と、頭を下げてドアを閉めた。
「…こんなお話ししていて、大丈夫だったかしら?」
心配する紫織に美加はケロリと言った。
「大丈夫。
だって、駆け落ちした相手って今のパパだもん」
「え⁈」
「上野駅でぎゃーぎゃー泣き喚いてパパから離れないママを見て、両親…つまり私のお祖父ちゃんお祖母ちゃんは仕方なく結婚を許したんだってさ。
ロマンス…て言うよりズッコケ珍道中でしょ?
…イケメンだったって言うのも詐欺か⁈て言うくらい今じゃくまのプーさんみたいなオヤジだしさ」
けれど艶子は澄まして顎を逸らし、こう言い放ったのだ。
「あら。私にとってはパパは今だに男前な王子様よ」