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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
…紫織は下田に向かう海岸道路・国道135号線を走る藤木の車内で、艶子の言葉を思い返していた。

…『紫織ちゃんの恋人が誰かは聞かないわ。
私たちは紫織ちゃんの恋を応援するだけ。
だから、後悔しないように、自分を大事に、純粋に恋に生きてね』

…そう言って艶子は美加によく似た明るく温かな笑顔を、紫織に向けたのだ。


「どうしたの?紫織。何か考えごと?」
ハンドルを緩やかに切りながら、藤木は優しく尋ねた。

「ううん。なんでもないわ。
…ねえ、伊豆の海って綺麗ねえ…!」
窓を開け、少し貌を突き出して海風を胸いっぱいに吸い込む。

冬の空気は透明の水晶の粒子を貌に当てたかのように冷たいが、温暖な伊豆の太陽の光に暖められて、潮風がほのかにぬくもり心地よい。

深い深い海の青色は、地中海のそれのようだ。
青色とコントラストを織り成す白い砂浜にも眼を奪われる。
「…房総の海とはまた違うのね?」
長い髪を潮風に遊ばせながら、藤木を振り返る。

藤木が眩しげに紫織を見て微笑った。
「ここは白浜海岸と言って、伊豆でも白砂が美しいことで有名な海岸なんだ。
だから、ここの海は透明度が違う。
気候も関係しているのかな。
伊豆は一年中温暖だからね。
…夏に来たらもっと青く澄んで、磯遊びも出来るし良かったんだけどね」
…紫織、寒くない?
優しい気遣い…。
そうして…
「…今度は夏に来ようね」
そう付け加えてくれたのだ。

…今度は…。
その何気ない約束が、紫織には宝物のように貴重で嬉しくなる。

「…うん…!」
そうして、ハンドルを握る藤木を改めて見つめる。
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