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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「ねえ、今日はどんな予定なの?」
紫織は、車窓の外に広がる美しい海の景色を堪能したのち、振り返り尋ねる。
朝早く出発したおかげで、伊豆半島には午前中に着けた。
これから二日間、藤木とはずっと一緒に過ごせるのだ。
幸せすぎていまだに信じられない。

車は間もなく下田市街地に入るようだ。
車の数が増えて来た。
藤木が巧みにハンドルを操作しながら、答えた。
「まず、ペンションにチェックインしよう。
オーナーの友人が特別に午前中から入れるように手配してくれているんだ。
一息ついたら美味しい伊勢海老のランチを食べに行こう。
もう予約してあるんだ。
それから下田港の遊覧船に乗って湾内を巡って、ペリー通りを中心に下田の町を散策しよう。
疲れたらゆっくりカフェで一休みして、宿に帰るのはどう?」

藤木の口から語られる計画はどれも楽しげなものばかりだ。
紫織はうきうきと歓声を上げた。
「ステキ!遊覧船に乗るの?すごく楽しみ!
ペリー通りってどんなところかしら」
「下田条約が締結された時、ペリー提督一行が下田港から条約が結ばれた了仙寺まで歩いた道のことらしい。
ノスタルジックな美しい街並みが楽しめるみたいだよ。
女の子に人気のおしゃれなカフェや雑貨屋もあるんだ。
紫織が気に入ってくれるといいけれど…」

「…私は先生と一緒にいられたら、どんなところでも楽しいし幸せよ。
でも、私のために色々とプランを考えてくれてありがとう」
心を込めて礼を言う紫織の髪を、藤木は愛おしげに撫でてくれた。
「…紫織は本当に欲がないね。
僕は君のためにまだ何もしてあげられていない。
学校では我慢させてばかりだし…。
…けれどこの二日間は、教師と生徒という立場は忘れよう。
忘れて君をうんと甘やかしたい。
だから、何でもわがままを言って」

「…先生…」
…どうして恋すると涙脆くなるのだろう。
藤木の愛に溢れた言葉と気持ちが嬉しいのに切なくて、胸が締め付けられるのだ。
けれど、泣いたら藤木を困らせてしまう。

だから紫織は藤木の手を握りしめ、わざと甘えてみせたのだ。
「…じゃあ、二日間ずっと恋人繋ぎして」
「了解。お姫様」
戯けた声と、髪に素早く触れた唇…。

そうして紫織の白く華奢な指と藤木の長く節が高い指が絡まり…約束を交わすかのように強く握り締められたのだ…。


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