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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
…店内に流れる音楽が、静かにドイツ語の古い唄に変わる。
アコーディオンのみの伴奏に乗せられ、甘く渋く重厚な薫り立つような唄が流れる…。

紫織はその唄に耳を澄ませた。
…なんだか胸を締め付けられるような切ない唄だ…。

「…これ、何の唄?」
…耳慣れないドイツ語、ハスキーなスモーキーな成熟した女性歌手の声…。
紫煙と古いウィスキーとゲランの香水の薫りが漂いそうな唄声だ…。

…ああ、と藤木が静かに微笑み、驚くほど流暢なドイツ語で口ずさんだ。

…Wenn sich die spaetern Nebel drehn
Wer wird bei der Laterne stehn…

…榛色の美しい瞳をした男に、その唄はひどく似合っていて、紫織は思わず聴き惚れた。

「…恋人よ、いつかまた街灯りの下で会いましょう…。
昔みたいに…。
…『リリーマルレーン』だよ。
古いドイツの恋の唄だ。
マレーネ・ディードリッヒという昔の有名な大女優が唄っている」

…夢のように愛するあなたの唇を想う…。

「…リリーマルレーン…。
何となく聞いたことがあるわ…」

世界史の時間に初老の教師の口から聞いたことがあるような気がする…。

「…第ニ次大戦下、連合国がドイツ兵士達の士気を下げるためにラジオ放送で流したとされているんだ。
故郷の恋人を想う兵士の唄だ。
…当時、ナチス政権下を逃れ亡命し、アメリカの市民権を得ていたベルリン出身のハリウッド女優、ディードリッヒは連合国の兵士を慰問し、その戦意を鼓舞するために歌ったとされている。
そのため彼女はドイツ国民には長い間、反逆者呼ばわりされていたそうだ。
けれど僕は、彼女は反戦歌として唄っていたと思うけれどね…。
…ひとは一面だけではその心の内は推し量れないものだからね…」
しみじみとした口調で呟くと、ふたたび口ずさんだ。

…恋人よ、いつかまた街灯りの下で会いましょう…。
昔みたいに…。

藤木の低音の美しい唄声はディードリッヒの声と静かに混ざり合い、そののち儚く解けて消えた…。
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