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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
カフェの帰り道、夕暮れの下田港の風景をゆっくりと楽しんだ。
夕闇が迫る中、ペリー通りの小径にはガス灯が灯り、ノスタルジックな美しさと温かさを醸し出していた。
「…綺麗…」
「本当だね…」
二人は微笑み、寄り添いながらコテージに帰っていった。

夕食は本館のダイニングルームで摂ることになっていた。
紫織は、ライラック色のシルクシフォンのノースリーブのワンピースに着替えた。
髪も緩く大人っぽくアップし直した。
「とても綺麗だよ、紫織…」
褒めてくれる藤木は、品の良いダークグレーのディナージャケットを羽織っている。
端整な貌立ちと相まってとても良く似合っている。
その姿に紫織は改めて胸をときめかせる。

素朴ながら上質なアンティークの調度品に飾られた大正レトロなダイニングルームには紫織と藤木以外に宿泊客はいなかった。


二人がウェイターに導かれ着席すると、奥から仕立ての良いブラックスーツに身を包んだ一人の青年がにこやかな笑顔で現れた。

「こんばんは。
ようこそお越し下さいました」
…がっしりした体躯、高い背丈は藤木と同じくらいだろうか。
きちんと撫で付けられた髪、綺麗に日焼けした貌は、身嗜みや手入れが行き届いたセレブ特有の姿だ。

「堂島!
今日はお世話になっているよ」
藤木が親しげな笑みを浮かべ、椅子から立ち上がり、伸ばされた手を強く握り締めた。
堂島と呼ばれた青年は藤木と固い握手を交わす。
「よく来てくれたね。
待っていたよ」
…そうして紫織を振り返り、眼を見張った。

「…これは…!
息をするのも忘れてしまうほど綺麗なお嬢さんですね…!」
人なつこく陽気な口調で話しかけ、手を差し伸べる。
「初めまして。堂島悠介と申します。
藤木とは大学時代の同級生です」

「初めまして。北川紫織です」
握手を交わし、少し緊張気味に挨拶する。
藤木の友人を紹介されるのは初めてだからだ。

「堂島はここ下田と軽井沢のペンションと那須塩原の老舗旅館と、三つも経営している遣り手の青年実業家なんだ」
藤木に紹介され、堂島は明るく笑い声を立てた。
「単なるどら息子だよ。
…ずっと世界中を放浪していて、ここ二年くらいでようやく親父の事業を引き継いだんですよ。
まだまだ古参の番頭たちから怒られてばかりです」
やや垂れ目な瞳が人好きするような、藤木とはまたタイプの違うハンサムな青年だ。

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