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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…紫織さん…紫織さん…」
悲嘆に暮れる紫織の耳に聞き慣れた声が飛び込んできたのは、翌朝のことだった。
「カヨさん…!」
紫織は貌を上げた。
慌ただしく鍵を開ける音がして、やがて心配気なカヨが現れた。
「紫織さん、大丈夫ですか?」
「カヨさん…!」
カヨが涙ぐみながら駆け寄る。
「お食事を持ってまいりましたよ。
…まあ、おかわいそうに…散々泣いていらしたんですね?」
温かいカヨの手が紫織の青ざめた頰を撫でる。
紫織ははらはらと涙を流した。
「お母様が酷いの。私を監禁して、先生を犯罪者扱いにしようとしているの。
カヨさんは知っているわよね?
私に好きな人…先生がいることを」
「ええ、ええ…。分かっておりましたよ。
だから私は奥様に申し上げたんです。
紫織さんとその方はきっと好き合っていらっしゃる。
決して無理やりなどではないはずです。奥様の誤解ですと…。
…何しろ、毎日お弁当を作っていらっしゃいましたから…と」
…カヨはずっと紫織を見守っていてくれた。
誰よりも紫織の気持ちを知ってくれているのだ。
「そうしたら?お母様は?」
カヨは力なく首を振った。
「…奥様は、それも強要されていたのだろうと…。
紫織さんは男に脅されて、なにもかも言いなりになっていたのだと。
そう仰って聞き入れて下さいませんでした。
…あんな恐ろしい形相の奥様は初めて拝見いたしました…」
カヨは怖ろしげに身震いした。
「お父様は?このことをご存知なの?」
「はい…。
奥様からお聞きになって、最初は半信半疑でいらっしゃいましたが…。
何かの報告をお受けになって、激怒されて出ていかれました」
…父、亮介だけは蒔子の話を鵜呑みにしないと思っていたのにと、紫織は絶望に暮れる。
力なく俯く紫織の手を握り、カヨは告げた。
「紫織さん。奥様と旦那様は今、紫織さんの学校におられます。
恐らくは紫織さんの先生を糾弾されるためでしょう。
奥様の懇意の弁護士先生も伴われておられましたから…」
紫織は息を飲んだ。
「…まさか…先生を辞めせるため…!?」
カヨは頷いた。
「絶対に紫織さんには話すなと言われましたが、私には我慢できませんでした。
紫織さんがお可哀想で…」
紫織は素早く立ち上がる。
そうして、カヨに深々と頭を下げた。
「お願い、カヨさん。私を学院に連れて行って下さい。
すべての責任は私が取ります」
悲嘆に暮れる紫織の耳に聞き慣れた声が飛び込んできたのは、翌朝のことだった。
「カヨさん…!」
紫織は貌を上げた。
慌ただしく鍵を開ける音がして、やがて心配気なカヨが現れた。
「紫織さん、大丈夫ですか?」
「カヨさん…!」
カヨが涙ぐみながら駆け寄る。
「お食事を持ってまいりましたよ。
…まあ、おかわいそうに…散々泣いていらしたんですね?」
温かいカヨの手が紫織の青ざめた頰を撫でる。
紫織ははらはらと涙を流した。
「お母様が酷いの。私を監禁して、先生を犯罪者扱いにしようとしているの。
カヨさんは知っているわよね?
私に好きな人…先生がいることを」
「ええ、ええ…。分かっておりましたよ。
だから私は奥様に申し上げたんです。
紫織さんとその方はきっと好き合っていらっしゃる。
決して無理やりなどではないはずです。奥様の誤解ですと…。
…何しろ、毎日お弁当を作っていらっしゃいましたから…と」
…カヨはずっと紫織を見守っていてくれた。
誰よりも紫織の気持ちを知ってくれているのだ。
「そうしたら?お母様は?」
カヨは力なく首を振った。
「…奥様は、それも強要されていたのだろうと…。
紫織さんは男に脅されて、なにもかも言いなりになっていたのだと。
そう仰って聞き入れて下さいませんでした。
…あんな恐ろしい形相の奥様は初めて拝見いたしました…」
カヨは怖ろしげに身震いした。
「お父様は?このことをご存知なの?」
「はい…。
奥様からお聞きになって、最初は半信半疑でいらっしゃいましたが…。
何かの報告をお受けになって、激怒されて出ていかれました」
…父、亮介だけは蒔子の話を鵜呑みにしないと思っていたのにと、紫織は絶望に暮れる。
力なく俯く紫織の手を握り、カヨは告げた。
「紫織さん。奥様と旦那様は今、紫織さんの学校におられます。
恐らくは紫織さんの先生を糾弾されるためでしょう。
奥様の懇意の弁護士先生も伴われておられましたから…」
紫織は息を飲んだ。
「…まさか…先生を辞めせるため…!?」
カヨは頷いた。
「絶対に紫織さんには話すなと言われましたが、私には我慢できませんでした。
紫織さんがお可哀想で…」
紫織は素早く立ち上がる。
そうして、カヨに深々と頭を下げた。
「お願い、カヨさん。私を学院に連れて行って下さい。
すべての責任は私が取ります」