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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
院長室に続く長い廊下を、紫織は駆け抜ける。
…まだ冬休みのこと…火の気もなく人の気配もない。
恐ろしいほどに静まり返った校内…。
吐く息は真っ白だ。
薄暗い廊下をひたすら走る。
大理石の床に紫織の靴音が響き渡る。

…早く…早く行かなくては、先生に濡れ衣が着せられてしまう…!

いきなり家を飛び出して来たので、薄手のタートルネックのセーターにロングスカートという軽装だった。
寒さと緊張で脚ががくがく震え、何度も転びながらまた走り出す。

「紫織さん!お待ちください、紫織さん!」
付き添ってきたカヨが、慌てて追いかけてくる。
「危ないですよ!紫織さん!落ち着いて!」
カヨの言葉も耳に入らないくらい、紫織は藤木のことで頭がいっぱいであった。

…早く…早く誤解を解かなくては…!
先生…先生…!

…でも…先生は今、どこにいるのだろう…。

藤木の不在…。
そして、母の不気味な行動と言葉…。
両親が学院に乗り込んだという事実とともに、紫織の胸は不安と焦りで張り裂けそうになる。

…早く…早く先生に会いたい…!

会いたいけれど、会ってしまうと何かが永遠に失われてしまうような、ぼんやりとした不吉な予感めいたものが、掠める。

…何を考えているの。
そんなわけないわ…!

紫織は自分の考えを打ち消すように頭を振り、廊下を走り続けた。

…院長室はもう目の前だ。

震える白い手で真鍮のドアノブを掴み、力一杯押し開いた。
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