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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「ミス・キタガワ…」
「紫織さん…!」
「紫織!」
いきなり飛び込んで来た紫織を振り向き、室内にいた院長のシスター・テレーズと両親が異口同音に声を上げる。

息を切らしながら紫織は前に進む。
「シスター・テレーズ…。
母から何をお聞きになったか知りませんが、すべて誤解です…!
私は藤木先生から乱暴などされておりません…!
私が藤木先生を好きになったんです!
先生は何も悪くありません!」

シスター・テレーズは驚いたようにその灰色がかった青い眼を見開いた。
「…ミス・キタガワ…。
貴女のお母様…マダム・キタガワは、貴女が洗脳されていると仰っているのです。
藤木先生に…その…無理やり関係を結ばされて、脅されて従っていると…」
生涯を神に捧げた聖職者、そして歴史あるこの学院の院長のシスター・テレーズにとり、このようなことは人生始まって以来初めてのショッキングな大事件であった。

明治初期に英国宣教師により設立されたこの学院は、清く正しく美しくをモットーに良妻賢母、そして貞淑な淑女を育成することを目標に生徒を厳しく教育してきた。
今まで、生徒が学校外の男子と不純異性交友を起こし、停学や退学になった事例はあったが、本学院の教師と関係を結んだことなど皆無だった。
…ましてや紫織は教師たちにとって、非の打ち所がない品行方正、成績優秀…加えて学院の貌となるほどの類い稀なる美しい生徒であったのだ。

紫織が入学してからというもの学院の受験用パンフレットの表紙は常に紫織の写真が使われ続けてきた。
紫織がパンフレットのモデルを務めるようになってから受験者数が二倍に増えたというデータもあったほどだ。
教師のみならず同級生や上級生、下級生たちからの信頼も厚い完璧な模範生徒の北川紫織が、新任の教師と関係を結んでいたという事実だけでも、シスター・テレーズにとっては俄かには信じがたいことであったのだ。

ましてや紫織の母親は、紫織は藤木に乱暴され、脅迫されて関係を続けさせられてきたと訴えた。
そうなると、これは学院内で収めることは出来ない。
警察が介入してもおかしくはない刑事事件となるからだ。

…ここは慎重にことに当たらなくてはならない…。
シスター・テレーズは、この歴史ある名門の学院の最高責任者として、熟慮しながら口を開いた。




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