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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
星南学院は幼稚園、幼稚舎、中等部、高等部、そして大学と広大な敷地を有している。
中・高等部は男女別の学校となっているが、それぞれ林や緩やかな丘、遊歩道に隔たれただけの敷地内にあるので、訪れるのは容易だった。
運動場やテニスコートは隣同士だ。
だから気の利いた女生徒たちは、ここで男子生徒たちと密かに物色し合い、そのまま交際するものも多くいた。
…女学院は男女交際禁止であったが、今どきそんな時代遅れの校則を守るものなどいないからだ。
そして、さまざまな学部を有する大学は星南女学院から一番奥…私鉄の駅に近い場所にあったので、今まで学院内で千晴に会うことはなかった。
紗耶は大学のオープンキャンパスにも参加しなかったから尚更だ。
…千晴はクリスチャンであり、この学院の出身だから、付属高校のミサの助祭役を引き受けたのだろう。
星南学院には英国教会のシスターの教師が数多く在籍し、キリスト教の教育と布教には大変熱心だ。
修学旅行は長崎の修道院を辿る旅なので、今どきの女子生徒には退屈すぎて不満が出るほどだ。
「高遠先生が福音朗読するなら私、起きてる!
…てか、真ん前で聴きたい!早く行こう!二宮さん!」
はしゃぐ菜月に腕を引っ張られ、紗耶は礼拝堂に足を踏み入れる。
…白い祭服のローブを羽織った長身の千晴が、祭壇の上に上がるところだった。
蝋燭を灯す千晴の美しい彫刻のような横貌が柔らかな灯りの中、幻想的に浮かび上がる。
「…かっこいい〜!」
菜月が声を上げる。
…そうだ…。
千晴お兄ちゃまは、本当に綺麗で素敵だ…。
…でも…。
紗耶は哀しげにため息を吐く。
…あの日以来、紗耶は千晴と無邪気に接することができなくなっていた。
…高遠本家に出かける日は極力理由を付けて行かないようにした。
千晴に会えば、あの日の衝撃が蘇ってしまうからだ。
だから、年に一回の徳子の誕生日にしか、あの家には足を踏み入れてはいない。
その日でさえ、千晴からは一番遠い席に座り、お茶会が終わるとすぐに一人で帰宅した。
紫織はそんな紗耶に心配げに
「…何かあったの?紗耶ちゃん…」
と何度か尋ねたが、紗耶は
「なんでもない。気がすすまないだけ」
と言葉少なに答えただけだった。
…紫織もそれ以上は尋ねようとはしなかった…。
…だから今日、千晴に会ったのも、一年ぶりだったのだ。
中・高等部は男女別の学校となっているが、それぞれ林や緩やかな丘、遊歩道に隔たれただけの敷地内にあるので、訪れるのは容易だった。
運動場やテニスコートは隣同士だ。
だから気の利いた女生徒たちは、ここで男子生徒たちと密かに物色し合い、そのまま交際するものも多くいた。
…女学院は男女交際禁止であったが、今どきそんな時代遅れの校則を守るものなどいないからだ。
そして、さまざまな学部を有する大学は星南女学院から一番奥…私鉄の駅に近い場所にあったので、今まで学院内で千晴に会うことはなかった。
紗耶は大学のオープンキャンパスにも参加しなかったから尚更だ。
…千晴はクリスチャンであり、この学院の出身だから、付属高校のミサの助祭役を引き受けたのだろう。
星南学院には英国教会のシスターの教師が数多く在籍し、キリスト教の教育と布教には大変熱心だ。
修学旅行は長崎の修道院を辿る旅なので、今どきの女子生徒には退屈すぎて不満が出るほどだ。
「高遠先生が福音朗読するなら私、起きてる!
…てか、真ん前で聴きたい!早く行こう!二宮さん!」
はしゃぐ菜月に腕を引っ張られ、紗耶は礼拝堂に足を踏み入れる。
…白い祭服のローブを羽織った長身の千晴が、祭壇の上に上がるところだった。
蝋燭を灯す千晴の美しい彫刻のような横貌が柔らかな灯りの中、幻想的に浮かび上がる。
「…かっこいい〜!」
菜月が声を上げる。
…そうだ…。
千晴お兄ちゃまは、本当に綺麗で素敵だ…。
…でも…。
紗耶は哀しげにため息を吐く。
…あの日以来、紗耶は千晴と無邪気に接することができなくなっていた。
…高遠本家に出かける日は極力理由を付けて行かないようにした。
千晴に会えば、あの日の衝撃が蘇ってしまうからだ。
だから、年に一回の徳子の誕生日にしか、あの家には足を踏み入れてはいない。
その日でさえ、千晴からは一番遠い席に座り、お茶会が終わるとすぐに一人で帰宅した。
紫織はそんな紗耶に心配げに
「…何かあったの?紗耶ちゃん…」
と何度か尋ねたが、紗耶は
「なんでもない。気がすすまないだけ」
と言葉少なに答えただけだった。
…紫織もそれ以上は尋ねようとはしなかった…。
…だから今日、千晴に会ったのも、一年ぶりだったのだ。