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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「…婚…約…?」
意味がわからなかった。
「…ほかのひとと…婚約…?」
紫織はその言葉の馬鹿馬鹿しさに直ぐに首を振った。
蒔子がまた、妄想話を始めたのだと解釈したのだ。
そうまでして、二人の仲を裂きたいのだと…。
「馬鹿なことを仰らないで。
お母様は嘘っぱちを並べ立てて、私たちを別れさせたいんだわ!」
紫織の反撃に、蒔子がくすりと笑った。
そうして、背後に立つ若い弁護士に眼で合図を送る。
蒔子の腹心の部下のように、その弁護士はすぐさま恭しく紫織に二つ折りの白い書面を渡した。
「…藤木様の身上調査書です」
「…調査書…?何なの?お母様…?」
蒔子がなぜだか機嫌の良い貌で微笑んだ。
「読めば分かりますよ」
紫織は藤木を見上げた。
…すぐさま反論してくれるとばかり思った男は、口を開かずただひたすら静謐と言ってもよい表情で紫織を見つめていた。
その異常とも言える藤木の様子が、紫織の不安を一層に掻き立てた。
震える手でもどかしげに紙面を開く。
…飛び込んで来た文字に、紫織は眼を疑った。
「…当調査会社の調査によると、藤木芳人氏は昨年末、長野市の広岡総合病院院長ご息女で同病院心臓外科医の広岡遼子氏と婚約を結んだ事実が判明…」
意味がわからなかった。
「…ほかのひとと…婚約…?」
紫織はその言葉の馬鹿馬鹿しさに直ぐに首を振った。
蒔子がまた、妄想話を始めたのだと解釈したのだ。
そうまでして、二人の仲を裂きたいのだと…。
「馬鹿なことを仰らないで。
お母様は嘘っぱちを並べ立てて、私たちを別れさせたいんだわ!」
紫織の反撃に、蒔子がくすりと笑った。
そうして、背後に立つ若い弁護士に眼で合図を送る。
蒔子の腹心の部下のように、その弁護士はすぐさま恭しく紫織に二つ折りの白い書面を渡した。
「…藤木様の身上調査書です」
「…調査書…?何なの?お母様…?」
蒔子がなぜだか機嫌の良い貌で微笑んだ。
「読めば分かりますよ」
紫織は藤木を見上げた。
…すぐさま反論してくれるとばかり思った男は、口を開かずただひたすら静謐と言ってもよい表情で紫織を見つめていた。
その異常とも言える藤木の様子が、紫織の不安を一層に掻き立てた。
震える手でもどかしげに紙面を開く。
…飛び込んで来た文字に、紫織は眼を疑った。
「…当調査会社の調査によると、藤木芳人氏は昨年末、長野市の広岡総合病院院長ご息女で同病院心臓外科医の広岡遼子氏と婚約を結んだ事実が判明…」