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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「貴様!ふざけるな!」
亮介がくぐもった声を上げながら藤木に掴みかかり、拳で殴りつける。

シスターたちから悲鳴が上がり、室内は騒然とした空気に包まれた。
よろけた藤木を壁に押し付け、亮介は何発も殴り続ける。
若い弁護士が慌てて亮介を止めに入った。
「北川さん!暴力はいけません!」

弁護士の手を振り切り、亮介は藤木の襟首を掴み、睨みつける。
学生時代ラグビーや剣道で鳴らした亮介は元々大変な熱血漢だ。
その上、溺愛している紫織に関しては人一倍過敏であった。
「よくも人の大事な娘を傷物にしてくれたな!
俺はお前を許さない。
貴様を刑事告訴する!」
藤木は小さく笑った。
「どうぞご自由に。
けれどそんなことをしたら、お嬢さんの将来にも傷が付きますよ。
法廷ではあらゆることが明らかにされるのですからね。
…お嬢さんがどんな風に僕に抱かれたのか…どんな風に僕に溺れたのか…。
すべてが赤裸々に晒されるのですよ。
別に僕は強姦した訳じゃない。
お嬢さんは僕に夢中だった。
だからお嬢さんを可愛がって、愛してやったんだ。
感謝して欲しいくらいですよ」
亮介が眼を剥いて、更に藤木を殴りつけた。

「貴様!殺す!」
亮介は藤木を床に突き飛ばし馬乗りになる。
激情のまま、殴り続ける。

「やめて…お父様…もう…やめて…」
紫織は泣きじゃくりながら叫んだ。
付き添ってきた家政婦のカヨが、崩れ落ちそうになる紫織を黙って抱きしめた。

弁護士が亮介を引き離そうと羽交い締めにする。
「北川さん!もうこれ以上はいけません!
逆に貴方が暴行罪で訴えられてしまいますよ!」

蒔子が貌色ひとつ変えずに、言い放った。
「あなた、おやめなさい。みっともない。
そんなことしなくても、この男はもう教師ではいられないのですから。
社会的地位を失うのですから」

藤木が亮介を押し退け、ゆっくりと立ち上がる。
切れた口元を手の甲で拭いながら淡々と告げた。

「…退職届は郵送します。
あとは、刑事告訴なり何なりお好きなようになさって下さい。
僕は逃げも隠れもしませんよ」

「先生!待って!お願い、待って…!」
必死で追いかける紫織を、藤木は邪険に押しやった。
「付いて来るな」
取りつく島もない冷たい声だった。

そうして藤木は、一度も紫織を見ることなく院長室を後にしたのだった。









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