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異邦人の庭 〜secret garden〜
第11章 ミスオブ沙棗の涙 〜甘く苦い恋の記憶〜
「ムッシュ・キタガワ、そしてマダム・キタガワ。
…このことは、ここだけの話にいたしましょう」
シスター・テレーズが重い口を開いた。

シスターたちが息を飲んだ。

「…藤木先生には一身上の都合により退職されたということにいたします。
そうすればミス・キタガワもこのまま何も変わらずに当学院に通学することができます。
…もし、ことを荒立てたら…」

シスター・テレーズの青灰色の瞳が、紫織の両親をじっと見つめた。

「ミス・キタガワの将来に大変な傷が付きます。
マスコミは面白おかしくミス・キタガワのプライバシーを暴き立てるでしょう。
もちろん、この学院にもあらゆる詮索が及びます。
…そんなことは私共、そちら様にとっても何のメリットもございません。
…藤木先生とミス・キタガワとの間には、何もなかった。
この事件は最初から起こらなかった。
藤木先生はプライベートのご都合で学院を去られた…。
…よろしいですね?」

シスター・テレーズには明治から脈々と続くこの名門女子学院の名誉を守る責務があった。
…藤木芳人と北川紫織の間に、愛が存在したこと…。
何らかの理由で藤木は北川紫織の元を去らなくてはならなくなったこと…。
…そして、北川紫織の母親が病的な執念を持って二人を別れさせようとしていたこと…。
それらは聖職者とは言え、人生経験の長いシスター・テレーズには充分に理解できた。

…けれど、自分にできることは、学院の名誉を守ること。
そして、北川紫織の将来を守ることしかないのだと、決断せざるを得なかったのだ。



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