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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
京都での寄宿舎生活や曄子との暮らしは、紫織は少しも苦痛ではなかった。
平日は学校や部活、舎監の仕事、そして日曜日は曄子の家の家事や茶道教室の手伝いと目が回るほどに忙しかったが、その忙しさは紫織にとって幸いだった。
…藤木のことを考えないで済むからだ。
ぽっかりと時間が空けば、否が応でも藤木のことを考えてしまう。
それが怖くて、紫織は予定を詰め込み、自分を追い込むように勉学や奉仕、そして曄子の手伝いに励んだ。
「紫織さんにもう縁談話が来てるえ。
…まだ高校生やから断ってるけどなあ。
これはあんたが成人したら、捌くのに難儀するわ」
自分のことのようにどこか浮き浮きした様子の曄子に、紫織は微笑うだけで何も言わなかった。
…曄子には話してはいないが、茶道教室のあと、紫織は男性の生徒たちに毎回思いつめたように告白されていた。
中には情熱的に、プロポーズしてくる者もいた。
片付けをしている水屋で、
「紫織さん。お願いです。僕とお付き合いしてください」
と、熱い眼差しで手を握られたこともある。
皆、きちんとした育ちの良い身元も確かな青年たちだから、不愉快な気持ちにはならなかった。
けれど、ときめきもなかった。
「…お気持ちはありがたいのですけれど…。
私はまだ学生ですから、どなたともお付き合いするつもりはないのです…。
…お教室でお会いして、お話するのでは駄目でしょうか…?」
と、哀しげに瞬きすると、彼らは申し訳なさそうに謝り、素直に去って行った。
男たちへのあしらいにもだいぶ慣れた。
刺激をしないように、男の自尊心を損なわないように対処するのは簡単だった。
青年たちは、紫織に嫌われたくないので、大人しく引き下がってゆくのだった。
…他愛のない恋の駆け引きは、良い気分転換になった。
…けれど…
あの美しい榛色の瞳と、深い深い森に咲く百合とひんやりしたモッシーの薫りの男を忘れ去ることはできなかった…。
平日は学校や部活、舎監の仕事、そして日曜日は曄子の家の家事や茶道教室の手伝いと目が回るほどに忙しかったが、その忙しさは紫織にとって幸いだった。
…藤木のことを考えないで済むからだ。
ぽっかりと時間が空けば、否が応でも藤木のことを考えてしまう。
それが怖くて、紫織は予定を詰め込み、自分を追い込むように勉学や奉仕、そして曄子の手伝いに励んだ。
「紫織さんにもう縁談話が来てるえ。
…まだ高校生やから断ってるけどなあ。
これはあんたが成人したら、捌くのに難儀するわ」
自分のことのようにどこか浮き浮きした様子の曄子に、紫織は微笑うだけで何も言わなかった。
…曄子には話してはいないが、茶道教室のあと、紫織は男性の生徒たちに毎回思いつめたように告白されていた。
中には情熱的に、プロポーズしてくる者もいた。
片付けをしている水屋で、
「紫織さん。お願いです。僕とお付き合いしてください」
と、熱い眼差しで手を握られたこともある。
皆、きちんとした育ちの良い身元も確かな青年たちだから、不愉快な気持ちにはならなかった。
けれど、ときめきもなかった。
「…お気持ちはありがたいのですけれど…。
私はまだ学生ですから、どなたともお付き合いするつもりはないのです…。
…お教室でお会いして、お話するのでは駄目でしょうか…?」
と、哀しげに瞬きすると、彼らは申し訳なさそうに謝り、素直に去って行った。
男たちへのあしらいにもだいぶ慣れた。
刺激をしないように、男の自尊心を損なわないように対処するのは簡単だった。
青年たちは、紫織に嫌われたくないので、大人しく引き下がってゆくのだった。
…他愛のない恋の駆け引きは、良い気分転換になった。
…けれど…
あの美しい榛色の瞳と、深い深い森に咲く百合とひんやりしたモッシーの薫りの男を忘れ去ることはできなかった…。