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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
…そんな心とはうらはらに季節は絵巻物のように移り変わり、紫織は高校を卒業し、また新しい春が訪れた。

紫織は京都の有名女子大に首席で入学した。

曄子の元へ来てから、東京の実家には一度も帰ってはいなかった。
「たまには帰ってあげよし。
蒔子さんも待ってはるわ」
と、勧める曄子に
「お母様は私のことなど待っていらっしゃいません。
私は…もう二度と家には帰らないつもりです」
と答えて、曄子にため息を吐かせた。
曄子は、この稀なる美しい姪と妹との間にある確執の根深さを改めて感じるのだった。
曄子なりに、上京した際にそれとなく二人の間を取り持とうとしたのだが、蒔子は
「…紫織さんのことはお姉様にすべてお任せいたします」
と答えたきり、口にしようとはしなかったのだ。

その代わり父、亮介は頻繁に京都の曄子の家を訪問するようになった。
紫織に会うためだ。

…かつて、蒔子から聞かされていた亮介は、浮気者で家庭を顧みない冷たい男…であったが、実際よく接すると、印象はがらりと違った。
亮介は人好きする美丈夫の上に賢明で、如何にも仕事のできる男盛りの魅力的な人物であった。
陽気で人当たりも良いし、曄子には何くれとなく気を遣い季節ごとに贈り物を欠かさない。
もちろん、紫織の生活費も潤沢に振り込まれていた。

何より馬鹿がつくほどの子煩悩で、紫織を眼の中に入れても痛くないほどに可愛がっているのが見て取れた。
愛人がいるにはいるらしいが、紫織を最優先に大切にしている様子が手に取るように分かった。

「…紫織を曄子さんに預かっていただいて、本当に良かった…。
礼儀作法や茶道や…日本古来の文化や伝統を教えていただくことは紫織にとって貴重な財産となります。
…それに何より、曄子さんに可愛がっていただいて紫織は幸せです。
…本当に感謝しております」
と、深々と頭を下げたのだ。

紫織が京都に来た今、亮介は経堂の家を出てマンションを借り、一人暮らしをしているという。
蒔子の頑なで神経症的な性格は、元はと言えば亮介の浮気が原因とはいえ、今や曄子は亮介に対して同情的な感情を持っていた。
それは紫織が父親にはなついていたからだ。
紫織は、どこか憎めない魅力を持つ父親のことは、とても好きなようなのだ。

それゆえ、曄子はしみじみと声を掛けたのだった。
「…亮介さんも苦労しはったんやねえ…」



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