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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
その名を聞いて、紫織の白い手がびくりと震えた。
白いボーンチャイナのカップが揺れ、カフェ・オ・レが波打った。
「…まだ、辛いかな…」
歳上の男らしく、堂島は配慮により満ちた口調で尋ねた。
紫織は長い睫毛をゆっくりと瞬き、寂し気に微笑った。
「…いいえ…。
以前のように身体が引き裂かれるように辛い痛みはありません。
…ただ…まだ、想い出になっていないだけです…」
その言葉に、堂島は息を呑んだ。
「…紫織さん…。失礼ですが、今、お付き合いされている方は?」
紫織は静かに首を振る。
「おりません。
…恋愛する気になれないのです。
…私の心は…先生とお別れしたあの日に凍りついたままのような気がします…」
こんな風に自分の気持ちを口に出したのは、あの日以来だと紫織は思った。
曄子にもカヨにも、大学の友人にも藤木との恋を語ったことはない。
…けれど藤木との蜜月を知っている堂島には、何も隠すことなく心の内を話せることができたのだ。
「…もったいないな…。
紫織さんのように奇跡のように美しくて嫋やかで素晴らしい若い女性が…」
苦々しいような表情で、堂島が首を振る。
そうしてきっぱりと言い放った。
「貴女はもう藤木を忘れて新しい恋をすべきだ」
…なぜなら…
躊躇うことなく、堂島は告げた。
「藤木はもう新天地で新しい生活を始めているのですから…」
白いボーンチャイナのカップが揺れ、カフェ・オ・レが波打った。
「…まだ、辛いかな…」
歳上の男らしく、堂島は配慮により満ちた口調で尋ねた。
紫織は長い睫毛をゆっくりと瞬き、寂し気に微笑った。
「…いいえ…。
以前のように身体が引き裂かれるように辛い痛みはありません。
…ただ…まだ、想い出になっていないだけです…」
その言葉に、堂島は息を呑んだ。
「…紫織さん…。失礼ですが、今、お付き合いされている方は?」
紫織は静かに首を振る。
「おりません。
…恋愛する気になれないのです。
…私の心は…先生とお別れしたあの日に凍りついたままのような気がします…」
こんな風に自分の気持ちを口に出したのは、あの日以来だと紫織は思った。
曄子にもカヨにも、大学の友人にも藤木との恋を語ったことはない。
…けれど藤木との蜜月を知っている堂島には、何も隠すことなく心の内を話せることができたのだ。
「…もったいないな…。
紫織さんのように奇跡のように美しくて嫋やかで素晴らしい若い女性が…」
苦々しいような表情で、堂島が首を振る。
そうしてきっぱりと言い放った。
「貴女はもう藤木を忘れて新しい恋をすべきだ」
…なぜなら…
躊躇うことなく、堂島は告げた。
「藤木はもう新天地で新しい生活を始めているのですから…」