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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…紫織さん…。
あんた、ええ男はんでもできはったん?」
いつものように曄子の髪を結い上げていると、曄子が鏡台越しに紫織を見遣り、興味深げな貌をした。
「…曄子叔母様…」
言葉に詰まっていると、曄子がふふふ…と笑みを漏らした。
「ええねん、ええねん。
うちは紫織さんにお付き合いしてる人がいはっても反対したりせえへんよ。
もちろん、蒔子さんにも秘密にしておくわ」
曄子は紫織が結い上げた髪を満足そうに合わせ鏡で確認する。
「…むしろ、あんたがいつまでも恋人ひとり作らん方が心配やったんよ。
…あの高校教師をまあだ忘れてへんのかいな…てなあ」

「…叔母様…」
紫織は驚いたように鏡の中の曄子を見つめる。

「…もう、忘れてしまい。
…あんたを捨てて、母親を取った男や。
今はほかの女と結婚したんやろ?
…優しい男は結局は残酷なんや。
そんな男にいつまでも義理立てすることあらへん」
「…叔母様…」

曄子はどこかしみじみとした口調で語り始めた。
「…うちもなあ…、同じようなことがあったんよ…。
昔…紫織さんくらいのころやった…。
好きなひとがおったんやけど、そのひと老舗の造り酒屋の跡取り息子でなあ。
うちは女姉妹しかおらんやろ?
うちが婿さん取らんとあかんかったん。
そんで、あちらさん家と揉めてなあ…。
結局、そのひとはお母さんに泣きつかれて、うちと別れること選んだんや。
…それから…うちはずっとひとりや…。
今になって思うと…なんでさっさと忘れんかったんやろ…。
ほかの人に眼ェ向けなかったんやろ…て、少し後悔しとるんよ…」
…その語尾に、微かな哀惜が滲む…。

「…叔母様…」

そうして資生堂のすずろを白くほっそりとした頸に丁寧に付けると、曄子は意外なほど優しい眼差しで紫織を振り返った。

「…だからなあ。
紫織さんも、昔の恋はさっさと捨てなあかんよ。
不実な男のことなんか、早よ忘れてしまい」

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