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異邦人の庭 〜secret garden〜
第3章 コンテ・ド・シャンボールの想い人
千晴を交えた食事は和やかに進んだ。
食卓には家政婦のテルの自慢の鯖の押し寿司のほかに、紫織の手作りの和風ロールキャベツ、カリフラワーと紫キャベツとスモークサーモンのマリネ、隠元の胡麻和え、胡瓜と人参と茄子の糠漬けなどが並んだ。
紫織は拙いなどと謙遜したが、料理の腕もプロ級だ。
ハーブを使った料理教室も時折開くし、和洋中華、エスニック、コルドンブルー、パン、そして洋菓子、和菓子と作れないものはないほどだ。
家政婦のテルを立て、テルの仕事を奪わないようにしているのも紫織の美徳だと思う。
…お母様は完璧だな…。
非の打ち所がない手料理を食べながら、紗耶は思う。
「本当に美味しいですね。
テルさんの鯖寿司は。
これ、お祖母様のお土産に少しいただけますか?
お祖母様は鯖寿司が大好きでいらっしゃるんです」
千晴の賛辞にテルが小娘のように頰を染めた。
「あら、いやだ!千晴様ったら!
こんな粗末なもので良かったらいくらでも!今、包んでまいりますね」
…そうして紗耶にそっと囁いた。
「…千晴様はほんっとにハンサムですねえ。
往年の銀幕スターのルドルフ・バレンチノみたいですよ…」
「…ル、ルドルフ…?だ、誰…?」
そのまま興奮しながらキッチンに舞い戻るテルを見ながら前を向くと、千晴が優しく微笑みながら紗耶を見つめていた。
「テルさんの鯖寿司に紫織さんのロールキャベツ…。
頬っぺたが落ちそうに美味しい…。
こんなに美味しいものを毎日食べられて、紗耶ちゃんは幸せな女の子だね…」
紗耶は素直に頷いた。
「はい…」
確かにそうだ。
自分は環境的にも経済的にも何もかも恵まれた女の子なのだろう…。
紫織が嫋やかな所作で、千晴の洋杯にノンアルコールの冷えた梅酒を注ぐ。
「千晴さんこそ毎日美味しいものを召し上がっているじゃありませんか。
高遠のお台所には料理長さんにキッチンメイドまでいらっしゃるし…。うちにみたいな庶民的な味とはひと味もふた味も違うでしょう?」
一拍置いて、千晴が静かに口を開く。
「…僕は母の手料理を覚えていませんからね…。
物心つく前に両親は亡くなりましたから…」
さらりと言った言葉に、紗耶は息を飲む。
…そうだった。
千晴お兄ちゃまはご両親の記憶が殆どないんだ…。
洋杯を持ち上げ、千晴が紗耶に穏やかに微笑みかける。
「…だから僕は、紗耶ちゃんが羨ましい…」
食卓には家政婦のテルの自慢の鯖の押し寿司のほかに、紫織の手作りの和風ロールキャベツ、カリフラワーと紫キャベツとスモークサーモンのマリネ、隠元の胡麻和え、胡瓜と人参と茄子の糠漬けなどが並んだ。
紫織は拙いなどと謙遜したが、料理の腕もプロ級だ。
ハーブを使った料理教室も時折開くし、和洋中華、エスニック、コルドンブルー、パン、そして洋菓子、和菓子と作れないものはないほどだ。
家政婦のテルを立て、テルの仕事を奪わないようにしているのも紫織の美徳だと思う。
…お母様は完璧だな…。
非の打ち所がない手料理を食べながら、紗耶は思う。
「本当に美味しいですね。
テルさんの鯖寿司は。
これ、お祖母様のお土産に少しいただけますか?
お祖母様は鯖寿司が大好きでいらっしゃるんです」
千晴の賛辞にテルが小娘のように頰を染めた。
「あら、いやだ!千晴様ったら!
こんな粗末なもので良かったらいくらでも!今、包んでまいりますね」
…そうして紗耶にそっと囁いた。
「…千晴様はほんっとにハンサムですねえ。
往年の銀幕スターのルドルフ・バレンチノみたいですよ…」
「…ル、ルドルフ…?だ、誰…?」
そのまま興奮しながらキッチンに舞い戻るテルを見ながら前を向くと、千晴が優しく微笑みながら紗耶を見つめていた。
「テルさんの鯖寿司に紫織さんのロールキャベツ…。
頬っぺたが落ちそうに美味しい…。
こんなに美味しいものを毎日食べられて、紗耶ちゃんは幸せな女の子だね…」
紗耶は素直に頷いた。
「はい…」
確かにそうだ。
自分は環境的にも経済的にも何もかも恵まれた女の子なのだろう…。
紫織が嫋やかな所作で、千晴の洋杯にノンアルコールの冷えた梅酒を注ぐ。
「千晴さんこそ毎日美味しいものを召し上がっているじゃありませんか。
高遠のお台所には料理長さんにキッチンメイドまでいらっしゃるし…。うちにみたいな庶民的な味とはひと味もふた味も違うでしょう?」
一拍置いて、千晴が静かに口を開く。
「…僕は母の手料理を覚えていませんからね…。
物心つく前に両親は亡くなりましたから…」
さらりと言った言葉に、紗耶は息を飲む。
…そうだった。
千晴お兄ちゃまはご両親の記憶が殆どないんだ…。
洋杯を持ち上げ、千晴が紗耶に穏やかに微笑みかける。
「…だから僕は、紗耶ちゃんが羨ましい…」