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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
「…そうなんですか…。
本当に華やかなご一族なのですね」
分家筋でもそれほどの富裕ぶりということは、本家の高遠家はやはり想像を絶するほどの格式と伝統と財産を誇っているのだろう。

「二宮さんは京都にもお店いくつか持ってはるから、もし気に入ったら、たくさんお得意さん連れてきてくれそうなんやろ。
山科さん、力入るはずや」
可笑しそうに笑う。

「…せやから曄子さんの自慢の美人の姪っ子さん貸してほしいて頼まれたんよ。
紫織さんが二宮さんをご接待してくれたら安心や…てな」

紫織は苦笑した。
「…私でお役に立てるのか分かりませんが、伺わせていただきます」
「おおきになあ。
山科さん、喜ぶわ。
…そうや、私のとっておきの綸子縮緬の友禅、着ていき。
鴇色のがあったんよ。
仕付け糸も取っとらん新品やねん。
紫織さん、色白やからきっと映えるわ」
…と、愉しげに言ったのち、

「…あんたがフランスに行ってしもうたら、こんなこともできひんようになるんやなぁ…」
ぽつんと寂しげに呟いた。

「…叔母様…」
曄子は紫織のフランス留学を、最近とても寂しがるようになっていた。
紫織を養女にしたいと言い出したくらいに可愛がってくれているのだから無理からぬことだと、紫織は心苦しく感じる。
曄子は蒔子よりずっと相性が合うし、紫織もとても好きになっていたからだ。

…でも、私はフランスで新しい人生を歩んでいかなくては…。
先生のことを忘れて…新しい人生を、切り開くのだわ…。

そう心に言い聞かせ、紫織はミルクティを飲み干した。

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