この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
翌週の土曜日、紫織は嵐山の山科逸子の自宅離れにいた。
逸子の夫は日本でも有数な香具会社の経営者だ。
建築道楽な夫が設計したその離れはさながら高級旅館か、または尼僧庵のように侘び寂びが尽くされた風雅な佇まいであった。
その中に正式な香室として、設えられた一室…銀閣寺の弄清亭を規範とした十畳の畳が敷かれ、床前には青磁の香炉が置かれていた。
香りの邪魔をするため、生花は使われない。
月別に決められた挿朶は、二月の桜の枝…これは造花である。
朱色の挿朶袋に清々しく挿されている。
ひとつひとつが茶道と異なり、紫織にとって大変に興味深いものだ。
「ありがとうねえ、紫織さん。
ほんまに恩にきるわ」
山科は何度も礼を言い、頭を下げた。
そうして、鴇色の友禅の着物姿の紫織をうっとりと見つめ
「…ほんまに綺麗な姪御さんやなあ…。
曄子さんが羨ましいわあ」
と呟いた。
「そんな…私こそ、香道に関しては殆ど知識がありませんから、ご迷惑をおかけしないように気をつけてまいります」
「平気や平気。
組香や進行なんかは皆、私と古いお弟子さんでやるさかい、紫織さんはお客様のご案内とお教室あとの懐石のご接待をしてくれたらそれでええねん。
…というても気の張る方は二宮さんだけやからね。
あんじょう頼みますえ」
逸子は、気丈そうな切れ長の瞳をきらりと光らせ、念を押した。
「は、はい」
…それが一番、プレッシャーだと紫織は思った。
逸子の夫は日本でも有数な香具会社の経営者だ。
建築道楽な夫が設計したその離れはさながら高級旅館か、または尼僧庵のように侘び寂びが尽くされた風雅な佇まいであった。
その中に正式な香室として、設えられた一室…銀閣寺の弄清亭を規範とした十畳の畳が敷かれ、床前には青磁の香炉が置かれていた。
香りの邪魔をするため、生花は使われない。
月別に決められた挿朶は、二月の桜の枝…これは造花である。
朱色の挿朶袋に清々しく挿されている。
ひとつひとつが茶道と異なり、紫織にとって大変に興味深いものだ。
「ありがとうねえ、紫織さん。
ほんまに恩にきるわ」
山科は何度も礼を言い、頭を下げた。
そうして、鴇色の友禅の着物姿の紫織をうっとりと見つめ
「…ほんまに綺麗な姪御さんやなあ…。
曄子さんが羨ましいわあ」
と呟いた。
「そんな…私こそ、香道に関しては殆ど知識がありませんから、ご迷惑をおかけしないように気をつけてまいります」
「平気や平気。
組香や進行なんかは皆、私と古いお弟子さんでやるさかい、紫織さんはお客様のご案内とお教室あとの懐石のご接待をしてくれたらそれでええねん。
…というても気の張る方は二宮さんだけやからね。
あんじょう頼みますえ」
逸子は、気丈そうな切れ長の瞳をきらりと光らせ、念を押した。
「は、はい」
…それが一番、プレッシャーだと紫織は思った。