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異邦人の庭 〜secret garden〜
第12章 ミスオブ沙棗の涙 〜遠く儚い恋の記憶〜
…香室へ続く長い廊下を歩きながら、紫織は背後の政彦からの視線の気配を痛いほど感じていた。

…こんなことを思うと、自分は酷く自惚れ屋のようだが事実だから仕方ない。
思春期を過ぎてから、ずっと紫織は男性たちが自分を見つめる熱い眼差しには慣れてしまっていた。
自分の整った容姿が男性を惹きつけることも淡々と納得している。
それゆえに紫織がほんの僅かでもその男性に微笑んだりすると、相手をどぎまぎさせたり有頂天にさせたりすることも…よくよく認識していた。

…紫織はそっと振り返る。
青年…二宮政彦の歩みが止まり、今の今まで紫織を露骨にじっと凝視していたことを恥じるように気弱にその睫毛が瞬かれた。

そんな青年に赦しを与えるように、紫織は優しく微笑む。

「…この突き当たりが香室です。
お足もと、お寒くありませんか?」

「…は、はい!大丈夫です…!」
眼鏡の奥の目元を染めて、政彦は頷いた。

「…良かったですわ…。
二月の京都は底冷えいたしますから…」
長い睫毛の先で見上げるようにして、微笑を与えてやる。

「…今は…暑いくらいです…」
如何にも育ちが良さげで物静かそうな青年の唇から、意外な言葉がうっとりと溢れ落ちた…。

紫織は不思議そうに瞬きをし、小首を傾げて見せる。
…青年の言いたいことはなんとなく察せられたが、ここは無邪気な振りをした方が無難だ。

「…何が暑いんだか…」
やれやれ…と言った風に隣の篤子が大袈裟に肩を竦めた。

「…全く、朴念仁はいざという時にこれだから困ってしまうわねえ…」
…篤子はどうやら名家の夫人らしからぬ海千山千的な性格の持ち主らしい。

「ねえ、紫織さん…」
篤子がきらりと光る瞳で紫織に話しかけようとした時、奥の間の襖が静かに開き、山科逸子が姿を現した。
今日の最上客・二宮親子を自ら迎えるためだろう。
香の会の開始時間が迫っていた。

「…先生がお見えになりました」
紫織は二人に会釈をしつつ、そのまま再び歩みを続けたのだった。



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